研究課題/領域番号 |
21K15582
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
藤吉 健司 久留米大学, 医学部, 助教 (70762798)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 腸内細菌叢 / 腫瘍免疫 / 癌微小環境 / 発癌メカニズム / colorectal cancer / microbiome / tumor immunity |
研究実績の概要 |
本研究初年度(令和3年度)は大腸癌凍結組織を用いた腸内細菌叢解析および腸内細菌定量化から開始した。凍結保存してきた大腸癌組織10症例(20検体:正常組織/腫瘍組織)からDNAを抽出・16SrRNAユニバーサルプライマーを用いてPCR、16SrRNA解析を用いて大腸癌組織に含まれる細菌叢解析を行った。 16SrRNAデータは、7検体(腫瘍組織6検体/正常組織1検体)であった。大腸癌組織DNAに含まれる細菌DNA含量がごく少量であることが要因の1つで解析効率が良い状態ではなかった。6つの腫瘍検体のうち、全例にBacteroides属は検出され、含有率10%以上と高比率であった。また、5例においてFusobacterium属が検出された。これらに2種の細菌は大腸癌の発癌や増殖に関連すると大腸癌患者の糞便に多く存在することが報告されている。本研究においても、大腸癌組織から抽出したDNA内にBacteroides属やFusobacterium属の細菌DNAが含まれていることを示すことができた。さらに、代表的な硫黄代謝細菌群のうち、Desulfovibrio属は3検体、Bilophila属は4検体、Mailhella属は1検体に検出できた。しかし、Desulfovibrio属の含有量は組織DNA全体のうち約1%程度であり、10%以上含むBacteroides属やFusobacterium属と比較すると極少量であった。 Bilophila属のうちB. wadsworthia特異的なプライマー設計のために、NCBI Taxonomy BrowserよりB. wadsworthiaの配列およびBilophila属のうちB. wadsworthia以外(non-Bilophila)の配列を参照し、定量的PCRが可能な137bp程度のプライマー設計が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において16SrRNA解析を行ったが、20検体10ペアを提出し解析可能であった検体は7検体1ペアのみであり、解析効率が良い状態ではなかった。これが研究進捗遅延の1つの理由である。これまでの腸内細菌叢研究は糞便DNAを用いた研究がほとんどであるが、本研究は大腸癌と腸内細菌の直接的な関連を明らかにするために大腸癌組織DNAに含まれる細菌叢解析を行ったからである。しかし、大腸癌組織DNAにもBacteroides属やFusobacterium属が検出された。これらの菌種は大腸癌患者の糞便DNAにも多く存在し、大腸癌の発癌・増殖と関連が示唆されており、本研究において大腸癌組織DNA中の存在を示したことは有意義である。今後も16SrRNA解析の継続へ取り組む予定である。 上記理由に加え、B. wadsworthia特異的なプライマー設計が困難であった点が理由に挙げられる。ヒトDNAの参照配列は1種のみ(GRCh38)であるのに対して、細菌は培養株毎に複数の参照配列があるためプライマー作成に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は、昨年度に引き続き、大腸癌凍結組織を用いた腸内細菌叢解析および腸内細菌定量化を継続する。16SrRNA解析に関して、20検体10ペア(正常組織/腫瘍組織)を目標とし腫瘍組織における細菌叢解析を行い硫黄代謝細菌群の含有率を評価し、正常組織との違いなどを検討する。さらに、B. wadsworthia特異プライマーを用いて、B. wadsworthiaの定量化を行う(目標解析数100症例程度)。大腸癌に含まれるB. wadsworthia低菌量群・高菌量群に分類し、各々の臨床・分子病理学的特徴(年齢/性/腫瘍部位/ステージ/組織型/KRAS/MSIなど)を解析し明らかにする。 B. wadsworthia特異プライマーの作成技術を応用して、硫黄代謝細菌群が共通して保有する硫黄代謝を司る遺伝子上にプライマーを作成する。作成したプライマーを用いて、硫黄代謝機能を有する硫黄代謝細菌群の定量化し、各々の臨床・分子病理学的特徴(年齢/性/腫瘍部位/ステージ/組織型/KRAS/MSIなど)を解析し明らかにする。 さらに、腫瘍免疫の評価法として腫瘍浸潤免疫細胞を免疫組織化学(IHC)を用いて定量化する。まずは腫瘍免疫として中心的役割を担うCD3陽性細胞・CD8陽性細胞の定量する。客観的定量評価のためにAI-Deep learning技術を用いて、IHCの陽性細胞数を機械的にカウントする。定量化した免疫細胞数と定量化した菌量を比較検討することで、硫黄代謝細菌群高菌量群と低菌量群における腫瘍免疫の関連性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時に予定していた16SrRNA解析が上記のように遅延した。従って、その後の研究計画であったB. wadsworthiaの定量化へつながるプライマー作成などの計画が遅延した。以上から試薬購入を延期したため当初の予定額に達せず、使用額に差異が生じた。 年度始めより遅延していた16SrRNA解析を行うのと並行して、腫瘍組織における腫瘍浸潤免疫細胞の定量化・免疫組織化学などを予定する。従って、同実験・解析で用いるで用いる免疫組織化学用試薬などの科研費予算は最終的に使用する予定である。当初の研究予定よりも遅れてはいるものの、大幅な遅延ではないと考えている。本解析をもとに、学会発表・論文作成・報告などを行う予定としてる。
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