研究課題/領域番号 |
21K15589
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中嶋 智之 信州大学, 医学部附属病院, 主任臨床検査技師 (10898232)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸癌 / Transcriptomics / サイトカイン / mRNA ISH |
研究実績の概要 |
大腸癌は本邦のみならず世界的に見ても罹患数・死亡数の極めて多い癌腫であり、死亡例の大多数は遠隔転移の経過を辿る。癌組織は癌細胞のみならず種々の細胞によって構築され、近年、癌微小環境における抗腫瘍免疫状態と腫瘍の侵攻性の関連が明らかになってきている。抗腫瘍免疫は様々な細胞から分泌される抗腫瘍免疫促進性サイトカインと抗腫瘍免疫抑制性サイトカインの発現バランスによって制御されており、抗腫瘍免疫抑制性サイトカインの発現が高い腫瘍は腫瘍免疫抑制環境を構築し、高い浸潤性、転移性を獲得すると考えられる。しかし、癌微小環境を構成する癌細胞と周囲の細胞の相互作用については未だ不明確である。本研究では実際に病理診断に使用された臨床検体を用いて、大腸癌組織を種々の細胞を含む腫瘍組織として俯瞰的に捉え、網羅的RNA発現解析を実施した。それらにより、大腸癌微小環境におけるサイトカインによって特徴づけられる腫瘍免疫状態と、臨床病理学的特徴とを結びつけ、これにより高転移性大腸癌予測マーカーとなり得るサイトカインを同定し、新たな病理診断的要素の創出を目指している。
①当院における大腸癌手術症例の中から、採取部位、ホルマリン固定時間、ミスマッチ修復タンパク質の発現性等を評価し症例を選定した。 ②対象症例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を用いて次世代シーケンサー(NGS)による網羅的RNA発現解析を実施した。 ③得られた網羅的RNA発現データを基に種々のin silico解析を実施しマーカー候補遺伝子を選定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
選定した大腸癌手術材料22症例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を用いて浸潤部をダイセクションしRNA抽出を実施した。RNAの質的評価を実施し、すべての検体が次世代シークエンサー(NGS)による網羅的mRNA発現解析が実施可能であることを確認した。NGSによる羅的mRNA発現解析を実施し、得られた網羅的mRNA発現データを用いて、種々のツールを用いたin silico解析を実施した。それにより、病期の進行した群で有意に高発現を示す30遺伝子、また病期の進行した群で有意に低発現を示す24遺伝子を同定した。それらの中から免疫組織化学染色やmRNA in situ hybridizationを用いて、より詳細にかつ多くの症例を用いて解析する遺伝子を選定した。
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今後の研究の推進方策 |
①手術時に遠隔転移が認められていた(ステージⅣ)症例に対する原発巣浸潤部における網羅的RNA発現解析をさらに追加し、候補遺伝子の絞り込みに役立てる。
②候補遺伝子の発現性を多くの大腸癌症例を用いて効率的に解析するために、tissue microarrayを作製、免疫組織化学染色やmRNA in situ hybridizationを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
網羅的mRNA発現解析にはホルマリン固定検体を使用することから、RNAの質的な懸念があったため解析症例数を絞って実施したため、次年度使用額が生じた。RNAの質的評価によって、当院の検体は基本的に良好なRNAの保存状態であることが分かったため、次年度は症例をさらに追加して網羅的mRNA発現解析を実施しする予定である。
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