大腸癌は、日本のみならず世界中で罹患者数及び死亡数が極めて多い癌種であり、死亡例の大部分は遠隔転移の経過を辿る。本研究では、癌微小環境におけるサイトカイン発現をトランスクリプトーム解析によって網羅的に解析し、ターゲットを探索、同定し研究を進めた。 本研究では、まず大腸癌のFFPEサンプルからRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqを実施した。このデータと、公開データベースにある大腸癌RNA-seqデータを照らし合わせて解析を実施した。解析の結果、Osteopontin(SPP1)が予後不良と関連する可能性が示唆された。大腸癌のFFPEサンプルにおいて実施したOsteopontinの免疫染色は、このタンパク質が浸潤前線に存在するマクロファージ様細胞によって産生されていることを明らかにした。Osteopontinの高発現は高度なtumor buddingと関連し、独立した予後予測因子であることが確認された。これらの研究成果を学会発表し論文で報告した。 RNA-seqデータの解析から、CXCL13も新たな解析ターゲットとして同定された。このサイトカインの低発現は予後不良の因子であり、病期ステージの進行とともに低下することが明らかになった。CXCL13の検出は免疫染色では困難であったため、mRNA in situ hybridizationを用いて検出した。CXCL13陽性細胞数は、CD8+リンパ球数とCrohn's-Like Lymphoid Reactionと呼ばれる腫瘍部におけるリンパ濾胞形成の増加と関連していた。この結果からCXCL13は抗腫瘍免疫応答を示唆している。CXCL13の産生細胞及びその近傍に局在する細胞種を詳細に解析するために、空間トランスクリプトーム解析が実施した。この成果に基づく論文は現在、投稿中である。
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