近年、癌のサブタイプに応じた治療最適化が進められているが、膵癌においてはまだ確立されておらず、現在もなお、膵癌治療において最も重要な役割を占めているのは化学療法である。治療開始直後に有効だった薬剤が、癌細胞の治療抵抗性の獲得によって、治療経過とともに効果を失うことがしばしばある。このような治療抵抗性を獲得した癌細胞に対して、早急に新しい治療法を開発する必要がある。 最近、細胞の運命を決定する重要な領域として、細胞の運命を決定する機能性分子を発現誘導するために形成される「スーパーエンハンサー(SE)」と呼ばれる転写制御領域が注目を集めている。抗癌剤に暴露された癌細胞は自己の生存のためにSEを形成し、抗癌剤耐性に関与する機能性RNA分子を発現すると考えられている。SEは、ヒストンH3K2のアセチル化が広範囲にわたって起こっているゲノム上の領域であり、転写因子やコファクターと共に、高い転写活性を持つ大きな複合体を形成している。SEから転写される遺伝子群は、細胞の運命を決定するために必要な「マスター遺伝子」と呼ばれる重要な遺伝子群であることが報告されている。 申請者は、これまでに作成した「膵癌・機能性RNA発現プロファイル」をもとに、抗癌剤暴露時のSE情報を統合することで、抗癌剤耐性に関与する「マスター分子」の同定を進めている。「マスター分子」を同定することで、癌細胞の抗癌剤治療抵抗性を克服する新しい治療法の開発に繋げることが期待される。
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