研究課題/領域番号 |
21K15603
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
細野 純仁 千葉県がんセンター(研究所), 脳神経外科, 医員 (60725365)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / 脳腫瘍 / 転移性脳腫瘍 / 神経膠腫 |
研究実績の概要 |
がん免疫療法は様々な癌種において有効性が実証され臨床応用されているが、その有効性は高くなく、膠芽腫や転移性脳腫瘍においても効果が低い可能性が指摘されている。がん免疫療法には腫瘍細胞を直接攻撃するT細胞(腫瘍特異的T細胞)が重要であるが、その脳腫瘍での解析は少なく抗腫瘍免疫応答に関する詳細な機序は不明な点が多い。そこで原発性及び転移性脳腫瘍の抗腫瘍免疫応答に対し放射線および免疫チェックポイント阻害剤(ICI)や分子標的薬を含む化学療法治療後の検体およびin vitroの実験系を用いた研究を計画した。本研究は、①保管検体の解析、②臨床検体を用いた腫瘍特異的T細胞の分離・解析、③In vitroでの検証の3つを軸に計画を立案した。①は放射線治療や化学療法を行った患者の腫瘍検体をもとにPD-L1やCD8の免疫染色を行い、それぞれの治療に対する抗腫瘍免疫応答を解析する。②は独自に確率した系を用いてフレッシュな状態で腫瘍浸潤T細胞を収集し、フローサイトメトリーで細かなPD-1やTregの解析を行う。さらに、③では②で樹立した反応系もしくは既に樹立しているCD3scFV導入細胞株と末梢血による反応系で、放射線や分子標的薬、細胞傷害性抗がん剤を加えることで、その影響を明らかにする。①により、多数での脳腫瘍の腫瘍微小環境の抗腫瘍免疫応答を腫瘍特異的T細胞の観点から明らかにし、さらに治療の影響も検討する。また②では細かいマーカーだけではなく実際の存在自体を明らかにし、③の実験系に用いる検体も同時に得て、③において実際に実験系で検証することで、より強固なデータを得られる。これらはバイオマーカーだけでなく脳腫瘍に対するICIとの併用療法に繋がる基盤データになり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した研究実績の概要の通り、本研究は①保管検体の解析、②臨床検体を用いた腫瘍特異的T細胞の分離・解析および③In vitroでの検証実験の3つを軸に解析を行った。現時点では①、③の検証実験が終了し結果を解析している段階である。 ①では外科切除に先行し放射線治療を施行した転移性脳腫瘍症例と未照射の転移性脳腫瘍検体に対し免疫染色を行い、がん免疫療法において重要な腫瘍特異的T細胞の発現の違いを比較検討した。また双方の症例の治療経過について生存解析を行い、がん免疫療法と放射線治療併用による効果を検証した。この結果を受け③の実験系を行った。 ③では、照射を加えた細胞株と未照射細胞株に対しそれぞれ末梢血を加えた後、CD3scFV導入細胞株との反応を解析した。照射群の細胞株に末梢血を加え、フローサイトメトリーを用いてた解析を実施した。結果、未照射群と比較して樹状細胞マーカー(CD80/86)の発現を有する細胞の発現が上昇していた。また同サンプルを用いてELISA法によりHMGB1の発現を解析したところ照射群において優位に発現がみられた。このことより、照射によりHMGB1を始めとする免疫を活性化させるサイトカインの発現が亢進されることで樹上細胞が活性化されている可能性が示唆された。さらに、この環境下でCD3scFV導入細胞株を加えcytotoxic assayを行ったところ、照射群で誘因に腫瘍細胞が障害される結果となった。 以上から、現時点では放射線治療により腫瘍免疫応答が活性化されている可能性が示唆されている。 以上の結果をまとめ文献報告を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までの検証実験結果ならびに臨床データ解析結果から放射線により免疫応答が活性化されることが裏付けられ、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める可能性が期待された。今後はこれらの解析結果を集計・要約し論文報告や学会活動による報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初複数の細胞株を用いて検証を行う予定であったが、現時点では単一細胞株のみの検証結果のため予定よりも試薬や抗体などの購入費が少なく済んだ。一方で免疫染色が当初の計画よりも難渋し抗体費用が嵩んでしまった。 本年度は執筆活動を行いつつ追加実験を行っていく予定であり、追加実験の際に必要となる費用や執筆活動費に補填していきたい。 またコロナによる活動制限も徐々に緩和されつつあり学会の現地開催の制約が解除されつつあるため本年度は積極的に参加していきたいと考えておりのその際の出張費に充てていきたい。
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