様々な環境下で最適な行動を選択するためには、外界の状況に応じて適切に判断しなければならない。我々は、2つの判断課題をランダムに切り替えるタスクスイッチ課題をサルが行っている際、課題状況に応じた神経活動の変化が、感覚表象に関わるMT野ではなく判断形成に関わるLIP野で生じていることをこれまでに報告した。 本研究の目的は、表象された感覚情報を状況に応じて適切に読み出し判断するための感覚-判断領野間の相互神経ネットワークを明らかにすることである。そのため、状況に応じた判断が求められるタスクスイッチ課題を行うニホンザル2頭のMT野とLIP野から局所電位を同時計測し、両領野間の機能結合ダイナミクスを、位相同期度を示すPhase Locking Valueと領野間の因果性を示すGranger Causality解析から評価した。 その結果、視覚刺激から眼球運動までの判断を形成する時間帯で観察されたβ帯域(14~30Hz)とGamma帯域(30~60Hz)同期活動は、それぞれ、課題に関連しないMT-LIP結合ペアと関連する結合ペアで生じていた。その因果性は、β帯域同期活動がLIP野からMT野へ向かう信号であるのに対して、γ帯域同期活動はMT野からLIP野へ向かう信号であることを確認した。また、γ帯域同期活動は、課題関連性が各試行で異なるMT-LIP結合ペアの中でも、課題に関連している試行のみで顕著に生じていた。 これらのことから、β帯域同期活動は課題に不要な感覚情報をトップダウン的に抑制する働きを持つ一方で、γ帯域同期活動は課題に必要な感覚情報を課題状況に応じてボトムアップに伝播させる役割を担っていると考えられる。MT-LIP野間のβ・γ帯域同期活動が、状況に応じた判断を支える感覚-判断領野間の相互神経ネットワークの一端を担っていることが明らかとなった。
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