研究課題/領域番号 |
21K15619
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
新田 陽平 新潟大学, 脳研究所, 特任助教 (30800429)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / αシヌクレイン / 伝播 / シナプス |
研究実績の概要 |
これまでに申請者は、ショウジョウバエの視覚系神経をモデルとしてパーキンソン病の原因タンパクであるαシヌクレインの非侵襲的伝播モデルの樹立を試みた。このモデルでは、特定のシナプスにおいてシナプス前細胞特異的にmCherryを結合させた病変型αシヌクレイン(αSynmut-mCherry)、シナプス後細胞特異的にGFPを結合させた野生型αシヌクレイン(αSynWT-GFP)を発現する遺伝子組み換えショウジョウバエを樹立した。これまでの研究で、αシヌクレインがretrogradeに移動しリソソーム内の酸性環境中に存在していることが示唆されていた。本年度では、引き続きシナプス前後細胞での凝集の移動の厳密な確認を行った。シナプス前細胞特異的にαSynmut-mCherryだけを発現させたショウジョウバエを、抗GFP抗体を用いて免疫染色したところ、GFPが発現していないにも関わらずシナプス前細胞の先端にシグナルが観察された。この結果は、昨年度に観察されたシナプス前細胞末端のシグナルが、抗体のバックグラウンドなのかシナプス後細胞から移動してきたものなのか判別を不可能にした。 また、腸管神経叢から中枢神経系へのαシヌクレインの伝播を模倣するために全神経でαSynmut-mCherryを発現させたショウジョウバエを樹立した。筋肉への注射が技術的に困難であることから、αSynの線維化物(PFF)を摂食させたところ、腸管神経でのリン酸化αシヌクレイン(p-αSyn)のシグナルが有意に増加した。次に、αSynmut-mCherryを発現させていないハエにPFFを摂食させた所、腸管神経でのp-αSynのシグナルの増加は観察されなかった。これらの結果より、本モデルにおいては摂食されたPFFが未知の機構を用いて腸管神経に局在するαSynをリン酸化させ、病的状態に移行させていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によって、αシヌクレインのretrogradeな移動に関しては抗GFP抗体がmCherryを誤検出した可能性があり、retrogradeな移動が起きたのかどうか判別することが困難となった。しかし、腸管神経から中枢神経系への伝播の模倣を試みたショウジョウバエにおいてPFFが腸管神経のαシヌクレインをリン酸化することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
1.PFF摂食によるαSynリン酸化の分子機構を解明するためのスクリーニング 本年度の研究によって摂食されたPFFが腸管神経に取り込まれてp-αSynとして検出されたのではなく、摂食されたPFFが未知の機構で腸管神経のαSynのリン酸化を誘発していることが明らかとなった。腸管神経特異的なGal4を用いたRNAiスクリーニング用ショウジョウバエ系統を用いることによって(1)腸に輸送されたPFFが腸管神経へと取り込まれる機構、(2)取り込まれたPFFが腸管神経で発現しているαSynをリン酸化する機構、に関与する因子を同定することが期待できる。 2.腸管神経と接続している神経にαSynのリン酸化状態は伝播するのか VNCの先端で腸管神経と接続していると思しき神経についてはリン酸化状態の上昇が観察されたが、全部の神経がラベルされている状態で特定の神経のみを選択し、p-αSynのシグナルを定量することは技術的に困難である。現在、腸管神経および腸管神経と接続している介在神経のみでαSynを発現させるショウジョウバエ系統を作成中であり、この系統にPFFを摂食させて腸管神経がリン酸化されるか、そして、介在神経にもリン酸化状態は伝播するのか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
αシヌクレインのretrogradeな伝播に焦点を絞ったRNAiスクリーングを行う予定であったが、そもそも伝播が起きたのかどうか判別することが困難となってしまったため行うことが出来なかった。今年度は腸管神経から中枢神経系へのαシヌクレイン病態の伝播に焦点を絞ったRNAiスクリーングを行うための遺伝子組み換えショウジョウバエ系統購入費用や生化学的実験に使用する予定である。
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