前年に引き続き、DM1患者のリクルートを行い、合計8名の患者尿中細胞の分離・培養に成功した。尿中細胞の新規骨格筋分化誘導法として、合成mRNAによる分化誘導を試みた。分離培養した尿中細胞にin vitro転写合成で作成したMYOD1 mRNAをリポフェクション法を用いてトランスフェクションしたが、高率に細胞死が誘発された。mRNAトランスフェクション量、時間、回数等の条件を検討し、また、mRNA導入後の筋分化培地に低分子化合物を投与するなど複数の条件を検討したが、筋分化後期マーカー(Myosin heavy chain、Myogenin)の発現は確認されたが、筋管形成に至ることはなかった。また、同一患者由来でもサンプル毎に細胞死が誘導される頻度や遺伝子発現量に違いがみられた。これは尿中細胞がヘテロな細胞集団であり、一見形態学的に同一なように見えても細胞のエピゲノム発現が異なり、分化誘導がされ易い、され難い細胞が存在することが示唆された。このことは、本研究が患者毎の表現型の差を検出することを目的としている上で、再現性、信頼性を担保するにあたり解決すべき最大の課題であることを強く認識させた。筋分化誘導を行うにあたり、ヘテロな細胞集団からの筋分化に適した細胞集団の抽出が必須であり、現在、至適細胞の同定とアイソレーションを行うべく研究を継続している。 またDM1尿中細胞は、分離培養時にすでにRNA fociの凝集が観察され、継代によるRNA fociの数の増加、サザンブロットでCAGリピート長の延長が観察された。これは加齢に伴うDM1病態を反映したものであり、これを指標にDMPK遺伝子を標的としたsiRNAを用いたところ、RNA fociの減少が確認された。患者由来の尿中細胞はRNA fociをターゲットとした治療薬開発において有用なツールであることが示された。
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