自閉スペクトラム症(自閉症)は50~100人に1人の子供に発症するといわれており、発症メカニズムの解明は社会的にも急務である。ところがこれまで、発症を左右する重要な発達期はいつなのか、どのような脳機構により発症するのかは明らかにされていなかった。自閉症のほとんどは特発性であり原因遺伝子を持たないため、発症に至る過程での中間表現型を探索する研究が進められてきた。本研究では、遺伝子変異によるコピー数の増加(遺伝子重複)・減少(ハプロ不全)のいずれの場合も自閉スペクトラムを発症し、また患者由来iPS細胞やゲノム解析でも制御異常が報告されているFoxG1因子に着目した。時期および回路特異的にFoxG1因子を操作した自閉症モデルマウスを開発し、まずはマウスにおいてもヒト同様にFoxG1増加・減少いずれのケースも自閉症様表現型である社会性行動の異常や、患者と同様のガンマ脳波の減弱が現れることを解明した。そして、自閉スペクトラム発症を左右するような臨界期が生後発達期にみられること、この時期に特異的に抑制回路が弱まっていることを明らかにした。実際、モデルマウスのGABA抑制系をさらに弱めると症状が悪化し、反対に未分化抑制細胞をモデルマウスの生後1週前頭前皮質両側に移植することで抑制系を強めると、生後 2週でE/Iバランスが平衡化し、成体で社会性への治療効果が現れることを見出した。すなわち、今後の自閉スペクトラム症治療に向けた適切なタイミングや回路機構を新たに提案した。以上の成果をNature Communication誌に報告した。
|