脳におけるニューロンの回路形成や情報処理について理解することは、認知症などの脳疾患による神経回路破綻のメカニズムを理解するうえで重要である。本研究では脳の領野内及び領野間における単一細胞レベルの神経ネットワーク機能を評価するために、記憶・学習試験を行ったマウスに対して、広視野型2光子レーザー顕微鏡を使用したカルシウムイメージングを実施し、マウスの大脳皮質における数千~数万個のニューロンの活動を同時に記録した。また、麻酔は神経活動を大きく混乱させ、正しい神経活動の評価を妨げるため、覚醒状態のマウスを使用して神経活動計測が実施された。測定された神経活動のデータに対して、初年度に開発を行った記憶形成前後における神経ネットワークの変化を捉えるための神経ネットワーク評価手法を使用することで、ニューロン間における活動の関係性が解読し、この関係性が恐怖条件付けによる記憶形成に伴いどのように変化するか評価を実施した。この評価によりposterior parietal cortexの領域内における神経接続性が恐怖条件付け後に増加することが明らかとなった。また、posterior parietal cortexとretrosplenial cortex間、retrosplenial cortexとsomatosensory cortex間、posterior parietal cortexとsomatomotor cortex間における恐怖条件付け後の神経ネットワークの変化を捉えることができた。これまでの脳神経機能研究では単一細胞レベルの空間分解能で神経ネットワークの機能及びその変化を評価する方法は実現されていなかったため、この評価手法は脳疾患研究における脳機能障害の理解や治療法開発だけでなく、基礎神経科学における神経回路の解読や制御などにも役立つことが考えられる。
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