本研究は、遺伝病であるハンチントン病での神経細胞内における異常を明らかにすることを目的としている。ハンチントン病は遺伝性トリプレットリピート病の一つであり、異常伸長したCAGリピートを持つHTT遺伝子が原因とされている。同様のトリプレットリピート病の一つである脆弱X症候群はFMR1遺伝子上でCGGリピートが異常伸長し、FMR1のコードするタンパク質であるFMRPの発現が抑制されることで引き起こされる。FMRPはRNA結合タンパク質であり、DLG4のmRNAと結合する。また、FMRPとよく似たタンパク質にFXR1というタンパク質があり、合わせてFXR Familyに含まれる。神経芽細胞腫であるNeuro2a細胞株を使用して、FMR1遺伝子と、それに関連するFXR1遺伝子とDLG4遺伝子をそれぞれノックダウンして、細胞内でどのような異常が生じるか調べた。その結果、これらの脆弱X症候群関連遺伝子のノックダウンによって、細胞内でユビキチン-プロテアソーム系の分解経路が異常亢進するということを発見した。また、これらの遺伝子をノックダウンで突起伸展が阻害された。この突起伸展の阻害は、初代培養神経細胞を用いた実験でも同様に観察された。同様にHTT遺伝子をsiRNAによってノックダウンしたところ、脆弱X症候群関連因子と同様に細胞の突起伸展が阻害された。そこで、HTT遺伝子ノックダウンでのユビキチン-プロテアソーム系について調べたところ、これも脆弱X症候群関連因子と同様に、ユビキチン-プロテアソーム系の異常亢進が見られた。これまで、ハンチントン病では、タンパク質分解系の減弱による異常タンパク質の蓄積が原因と見られていたが、これらの結果により、正常ハンチンチンタンパク質の消失によりタンパク質分解系が亢進するという新たな知見を得た。この知見は、ハンチントン病の病態解明につながることが予想される。
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