研究実績の概要 |
グリセロリゾリン脂質は多彩な生理活性作用を発揮するがその分子種による生理活性作用の相違については不明な点が多い。リゾリン脂質と肝線維化の関連ではリゾホスファチジン酸、スフィンゴシン1-リン酸が肝線維化と関連することが報告されている。リゾリン脂質に分類されるリゾホスファチジルセリン(LysoPS)は近年その特異的受容体(GPR174、GPR34、P2Y10)が同定され新規リゾリン脂質メディエーターとして注目され始めている。脂肪酸分子種と疾患をつなぐ新しい機序として新規リゾリン脂質分子種が関与していると仮説を立てた。今回我々はLysoPSが疾患、特に肝線維化に関与しているかということを明らかにすることを目指す。培養肝筋線維芽様細胞(CSF-8B)を用いて市販の18:0及び18:1由来のLysoPSを投与したところα-SMAの強発現を認めた。同細胞にLysoPS受容体のagonist投与にてα-SMAの強発現を認めた。肝線維化におけるTGF-betaの関与について、阻害剤を用いてsmad3およびp38MAPkinase、Rho-associated kinaseの関与を確認した。 CCl4投与肝硬変モデルマウスの肝組織においてISH法にて LysoPSの受容体を検討したところ、グリソン稍に一致して GPR174,GPR34,P2Y10の発現が増加していることを確認している。さらに慢性B型肝炎から発生した高分化型肝細胞癌のヒト組織では、非癌部のうち癌周囲の線維性被膜の近傍の肝星細胞において最も強い発現を認めていることを確認した。 また、CCl4投与肝硬変モデルマウスおよび肝線維化を伴うヒト血漿において、一部の脂肪酸分子種のLysoPSの有意な上昇を認めることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リゾリン脂質に分類されるリゾホスファチジルセリン(lysophosphatidylserine;LysoPS)は近年その特異的受容体(GPR174、GPR34、P2Y10)が同定され、新規リゾリン脂質メディエーターとして注目され始めている。脂肪酸分子種と疾患をつなぐ新しい機序として新規リゾリン脂質分子種が関与しているという仮説を立てた。今回我々はLysoPSが疾患に関与しているかということを明らかにすることを目指した。 (1)培養肝筋線維芽様細胞(CSF-8B)を用いて、市販の18:0及び18:1由来の LysoPSを1 μM,10 μM投与し,24時間後にα-SMAをWB法にて検討したところ,α-SMAの発現が10 μM18:0及び18:1 LysoPS投与にて有意に増加した.薬理学的にはSmad3,p38,Rho kinaseの阻害薬によりLysoPSによるα-SMAの発現増強が阻害され,これらの関与が考えられた.(2)CCl4投与肝硬変モデルマウスの肝組織においてISH法にてLysoPSの受容体を検討したところ,グリソン稍に一致して GPR174,GPR34,P2Y10の発現が増加していた.また慢性B型肝炎から発生した高分化型肝細胞癌のヒト組織では,癌部では非癌部の大部分よりもこれら受容体の発現が増加していたが,非癌部のうち癌周囲の線維性被膜の近傍において最も強い発現を認めた.免疫染色にて肝星細胞,活性化した肝星細胞において強発現していることが考えられた.(3)前述のマウスの血漿および肝疾患を有するヒト血漿において一部の脂肪酸分子種のLysoPSの上昇を認めた。以上の結果よりLysoPSは新規肝線維化促進因子および線維化マーカーである可能性が示唆された.今後受容体アンタゴニストによる肝線維化の治療法の開発,アゴニストによる癌進展抑制剤の開発などが期待される.
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