研究課題/領域番号 |
21K15663
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
越智 ありさ 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教務補佐員 (30831797)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | CKD / バイオマーカー / スフェロイド / エクソソーム |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)は『新たな国民病』と言われている。しかしながら、一部の腎炎を除き障害を受けた腎臓を治すための治療薬は開発されていない。また、腎臓病は自覚症状に乏しいため、多くの患者がCKDへと進行してしまう。こうした観点から、より早期の段階で腎炎診断を可能とするバイオマーカーの樹立が求められている。本研究では、2次元培養より生体腎に近い形質を有する糸球体様および尿細管様スフェロイドを用い各腎臓病を模倣するモデル培養系を作製する。作成したモデル培養系をRNA-sequenceにて解析を行い、早期のバイオマーカー候補の探索および、候補分子の変動を各病因のモデルマウスにて検討する。現在行われている腎症の確定診断は腎生検であり、患者への負担が大きく、非侵襲的な診断方法の確立が求められている。そこで、候補分子中から尿中にて抽出可能な分子を探索し、新規臨床検査方法の開発を目指す。 様々な病因からなる腎症の培養モデル作製のため、本年度はスフェロイドを糖負荷、H2O2および炎症性ストレスとしてTNFα刺激下で培養し、線維化マーカーであるSMAとCol4発現が増加する刺激時間を各モデルにて検討した。検討結果から得た線維化マーカー増加条件より早期においてスフェロイドよりRNAを抽出し、RNA-sequenceを施行し各種ストレスを反映するマーカーを選定中である。選定したマーカー候補分子が生体内においても早期に変動しているかを確認するため、Ⅱ型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスの早期腎症を含む期間における尿と組織の採取を行った。また、より腎臓病患者の生体内に近い3D培養モデルを作製するために、腎臓病患者の尿中から細胞を採取し培養を行い、確立済みのスフェロイドとの共培養方法を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎炎発症の初期段階を反映するマーカー選定のため、糸球体様および尿細管様スフェロイドを、糖負荷、酸化ストレス、および炎症性ストレスとしてTNFα刺激下で培養を行った。各刺激下において、生体腎での腎炎発症初期と考えられる線維化マーカー(SMA、Col4)の発現量が増加する暴露時間を検討した。スフェロイドの種類および刺激によって異なるが、刺激添加後6時間~24時間において、線維化マーカーの発現増加を確認した。定めた暴露時間に対し線維化マーカーの発現が見られない早期の段階でRNAを抽出し遺伝子発現変化をRNA-sequenceにて解析中である。選定した候補分子の発現の有無および発現変動をmRNAレベル・タンパク質レベルにおいて解析するため、Ⅱ型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス4~12週齢の腎と尿を採取した。 次年度予定の尿中からのバイオマーカー抽出法の樹立の予備実験として、腎臓病患者およびdb/dbマウスからエクソソームを抽出した。また、糸球体様および尿細管様スフェロイドへの刺激添加ではモデル培養系の構築が困難な腎炎について、患者尿から細胞を採取しスフェロイドとの共培養方法を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
早期腎炎の非侵襲的な臨床検査方法の確立を目指し、尿中より検出可能なバイオマーカーの選定を行う。尿中には、血漿タンパク質や尿細管由来タンパクなどが多く含まれるため、特定のバイオマーカーを少量の尿から抽出するのは困難である。そこで、尿中のエクソソームを抽出し、エクソソーム内に含まれる分子から、早期腎症を反映するマーカーを探索する。少量の尿中よりエクソソームを単離する方法は既に確立しているため、db/dbマウスおよび腎疾患患者より採取した尿を用いて、タンパク質レベルで検出可能なマーカーの選定を行う。 糖尿病などを起因とするいくつかの腎症はスフェロイドを特定の刺激下で培養することによりモデル培養系を作製することが可能である。しかしながら、遺伝性を含めた原発性や高血圧、膠原病など全身疾患に伴って起こる二次性など様々な起因をモデル培養系で再現することは困難である。そこで、腎臓病患者由来の細胞を含むスフェロイドの作製を検討する。腎臓病患者の尿中には、脱落したポドサイトや尿細管上皮など腎臓由来の細胞が含まれている。この患者由来細胞を含むスフェロイドを作製し、患者血を添加し培養を行う。作製したスフェロイド内で、生体内同様に原疾患を反映するマーカーの発現が起きているかタンパク質・RNAレベルで確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)COVID-19の蔓延に伴い、RNA-sequenceに費用な物品の欠品や納入遅延が発生し、一部の解析が完了していないため。 (計画)物品が納入され次第、RNA-sequenceを実施し、使用する予定である。
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