研究課題
我々は細胞外に放出されたHSP72の役割を解明するため、HSP72の血小板への作用と抗HSP72抗体の出現意義を明確する研究を遂行している。我々の今までの試験管内研究では血小板凝集惹起物質の血小板凝集力をHSP72が増強することを明らかにした。また、抗HSP抗体がその作用を抑制することも示すことができた。HSP72は細胞にストレスを付加すると放出される。ストレス条件下で血小板凝集すなわち血栓が形成されやすくなる原因を究明し、HSP72増加抑制は血栓形成を遅延させ、さらにはHSP72および抗HSP72抗体のモニタリングにより血栓形成の進行を把握し、心筋梗塞などの血栓形成に起因する疾患の予防に繋がるのではないかと推測している。該当年度において我々は、血栓形成患者の血漿中HSP72濃度と抗HSP70抗体濃度を解析を試みた。病院ルーチン検査のうち凝固線溶系を測定した患者血漿を収集し、HSP72濃度や抗HSP70抗体濃度を測定し、血栓形成マーカーと比較検討した。測定検体は様々な基礎疾患により血液凝固線溶系に異常が生じ血液中で血液凝固反応が亢進する病態であり微小血栓の形成に伴う臓器障害および出血傾向を示す症候群である播種性血管内凝固症候群(DIC)と非DICとに分類し比較した。その結果、HSP72は非DICよりもDICの方が高値になり、DICのうち線溶系が亢進する造血障害型DICよりも、凝固が亢進している基本型DICや感染型DICでHSP72が高値を示したことから、血栓形成にHSP72 が関与していると示唆された。また、抗HSP70抗体が非DICよりもDICの方が高い傾向を示したことから、抗HSP70抗体が血栓形成に何らかの影響を及ぼしていると予想された。今後さらにデータを蓄積し、より精度の高いデータ解析を行う。
3: やや遅れている
本学倫理委員会の承認を得て本学附属病院で外来または入院で血栓症と診断された患者のHSP72および抗HSP70抗体を動態解析した。症例数はまだ少ないが、解析は進んでいる。一方、ボランティアの冨血小板血漿を用いた検討でのHSP72の血小板への作用機序解明については、解析が遅れている。今後はのHSP72の血小板への作用機序解明について解析を進める計画である。
該当年度はDIC患者のHSP72および抗HSP72抗体の動態について傾向を得ることができた。今後はこのデータの信頼性を高めるために、より症例数を増加させ血栓症におけるHSPの動態について解析を積み重ねる。また、HSP72の血小板作用機序を解明するため、ヒト血小板と血小板活性化因子と反応させ、蛍光標識したリコンビナントHSP72タンパクおよびPE標識CD42抗体を反応後、フローサイトメトリーで血小板上のHSP結合性を解析する。次にHSP72と結合すると予測するTLRをTAK-242などのTLR阻害ペプチドでブロックし、血小板凝集惹起物質とFITC標識HSP72およびPE標識CD42抗体によるFCMで阻害ペプチドの量反応性を解析、HSP72結合と血小板上のTLRとの関係性を検証する。また、生体内でのHSP72の血小板凝集作用を証明するために、自然誘発的に血栓を形成しやすい実験動物モデルであるアポE欠損マウスに高脂肪食を摂取させ血栓形成を誘発し、HSP72濃度と抗HSP72抗体濃度の変化を経時的にとらえる。さらに高脂肪食アポE欠損マウスにHSP72発現剤テプレノンを投与し、血管内血栓の形成を調査する。血中HSP72濃度、抗HSP72抗体濃度、血栓形成マーカーと酸化LDL濃度を測定し、経時的な血栓形成過程を捉え解析する。
今回使用した助成金から物品および旅費を支出し使い切ることはできず、131,180円余らす結果となった。この金額は次年度の物品費として使用する。
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