研究課題
がんの治療成績が飛躍的に向上する一方で、診断のショックや治療による負担は、患者に強い精神的苦痛をもたらす。がん患者の自殺率は依然として高く、患者の精神的苦痛を軽減することが重要課題である。これに対しては心理療法が推奨され、患者も医療者も支援を必要としているが、残念なことに実際に心理療法の受療に至るケースは少ない。その理由として、心理療法といっても様々なものがあり、患者や医療者にとって理解しづらいという点が高い障壁となっている。エビデンスに基づく医学的治療とは異なり、心理療法は専門家の経験から体系化・伝承されていくため、類似した支援が乱立している。したがって、まず研究1として、がん患者に対する様々な心理療法の種類や内容に関するデータを収集し、機械学習を用いて心理療法をカテゴリに再分類する。つづいて研究2として、患者の状況やニーズごとに、精神的苦痛改善に有効な心理療法カテゴリを明らかにする。まず2021年度は研究1について倫理審査委員会への申請を得て、全国のがん診療拠点病院・国立がん研究センターにて、緩和ケアチームの心理職にオンライン質問紙調査の案内を郵送した。評価項目は、①心理職の属性および所属施設、②外来2ケースの一般的な心理療法の特徴(心理療法の種類や話題)、③病棟2ケースの一般的な心理療法の特徴(心理療法の種類や話題)とした。解析は、機械学習的手法のうち、教師あり学習のサポートベクトルマシンまたは適応型判別分析を用いて再分類を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
まず本研究の予備調査として実施していたがん患者の心理療法に対するニーズ調査の結果をまとめ、学術論文として投稿した。また研究1について倫理審査委員会への申請を行い、研究機関長の実施承認後に質問紙調査の案内が配布された緩和ケアチームの心理職のうち、同意の得られた者に対してオンライン質問紙調査を実施した。調査の回答期限は2022年4月末日までとし、現在までに83名からの回答が得られている。また研究2の準備としてCOVID-19感染拡大に伴って、オンライン調査によりアウトカム評価ができるよう計画を修正した。したがって、ほぼ当初計画されていた通りに調査が実施されている。
今後は、得られた研究1のデータを解析してがん心理療法の分類を試みるとともに、学会・論文に成果を発表していく。また研究2の計画変更に伴って、患者のQOLを評価する尺度がオンラインでも活用できるよう標準化の手続きを進める。現段階ですでに倫理審査委員会への申請準備がおおむね整っており、これらの手続きが完了してから研究2の調査開始を目指す予定である。
研究1の実施に向けた倫理審査委員会の申請において、結果通知までに予定よりやや時間を要したため、調査の回答期限を2022年4月末日に延期した。そのために、研究対象者への謝金支払いが2022年度に繰り越されたため、次年度使用が生じている。今後、おおむね予定通りに執行される予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
International Journal of Clinical Medicine
巻: 13 ページ: 98-120
10.4236/ijcm.2022.133009