研究課題
われわれはWistarラットに肝発がん性物質であるDiethylnitrosamine(DEN)を投与し,肝細胞がんラットを作成した.肝細胞がんラットでは体質量あたりの水分含有量およびナトリウム・カリウムの含有量はいずれも有意に増加していることが明らかとなり,これにはグルココルチコイド受容体の活性化,アルドステロンの分泌亢進,腎髄質における尿素集積の亢進が寄与している可能性が示唆された(Life Sci 2022; 289: 120192).われわれはSDラットにおいても同様にDENを投与し,同様の事象が観察されることを示した.
2: おおむね順調に進展している
アルドステロンはアンジオテンシンⅡによって副腎のアンジオテンシン受容体が刺激されることにより分泌が亢進することが知られている.われわれは,肝細胞がんラットにおいてアルドステロンの分泌亢進が起こる機序を解明するため,アンジオテンシン受容体1a型(AT1aR),アンジオテンシン受容体1b型(AT1bR)のノックアウトラットに対して同様にDENを投与し,がんの表現型や体液異常に影響がでるか検討を行った.結果,AT1aRのノックアウトラットでは大きな表現型の変化は認められなかったのに対し,AT1bRのノックアウトラットでは通常のSDラットと比較して有意に肝重量が小さいことが明らかとなった.一方,DENを投与したAT1bRのノックアウトラットでは血漿のAST,ALTといった肝障害のマーカーが有意に高値であることが明らかとなった.以上より,肝細胞がんの体液異常において全身のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が深くかかわっていることを解明できた点で,本研究課題については順調に進捗していると考えている.
今後,上記ラットにおける肝臓の組織像や体液異常への影響についても検討を進め、肝細胞がんの体液異常においてアンジオテンシン受容体がどのように関与しているか解明していく予定である.
2022年に研究者本人が香川大学より東京慈恵会医科大学に異動したため,異動当初,研究環境の整備に時間を要し,十分な研究活動を行うことができなかった.2022年度に研究環境の整備をおおむね行うことができたため,次年度は繰越分も含めた研究費を用いてさらなる研究活動を行うことができると考えている.
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Life Sciences
巻: 289 ページ: 120192
10.1016/j.lfs.2021.120192