我々はすでに肝細胞がんラットにおいて体液喪失を契機とした体液保持機構の活性化が起こることを明らかとしている.その際アルドステロンの分泌亢進が主体的な役割を果たすことも併せて報告している. アルドステロンは副腎皮質において産生されるが,これはアンジオテンシン受容体を介した調節を受けていることから,アンジオテンシン受容体1a型(AT1aR),アンジオテンシン受容体1b型(AT1bR)のノックアウトラットにおいて肝細胞がんを誘導した場合に体液喪失や体液保持機構にどのような変化が起こるか検討を行った. AT1aRのノックアウトラットに肝細胞がんを誘導しても大きな表現型の変化は見られなかった一方,AT1bRのノックアウトに肝細胞がんを誘導するとコントロールのラットに肝細胞がんを誘導した際と比較して顕著な尿量,尿中ナトリウム排泄の亢進を認めることが明らかとなった.また,腎髄質における尿素トランスポーターの活性化,腎髄質における尿素集積の亢進,血管収縮の結果としての血圧上昇が認められることが明らかとなった.すなわち肝細胞がん誘導AT1bRノックアウトラットは通常の肝細胞がんラットと比してさらに体液喪失が亢進し,体液保持機構もさらに活性化していることが推測された.また,肝細胞がんを誘導したAT1bRのノックアウトでは血漿のAST,ALTといった肝障害のマーカーが有意に高値であり,肝重量が有意に小さかった.がんの表現型の程度としてはAT1bRでも大きな変化を認めなかったことから体液喪失の結果として肝臓における異化が亢進している可能性が考えられた.現在はこの体液喪失亢進の機序を明らかとするため尿細管のトランスポーターの発現に変化があるかなどの検討を行っている.
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