本研究の目的は、覚醒・睡眠を厳密にわけた体性感覚誘発磁界(SEFs)を用いて大脳・視床間の興奮系と抑制系のバランス異常の評価を行い、てんかん発作関連領域外のネットワーク異常を明らかにすることである。最終年度では、主に東北大学医学系研究科てんかん学分野と工学研究科で共同開発中のトンネル磁気抵抗素子を用いた磁場センサ(TMR磁気センサ)による健常者でのSEFsの計測を行なった。TMRセンサの感度の向上により、健常成人において正中神経刺激SEFsが再現よく計測できることが確認できた。今後は、より多数例での記録および加算回数を減らしての記録、さらには正中神経以外の誘発磁界の記録を行う予定である。 てんかんにおけるSEFsを用いた大脳・視床間の興奮系と抑制系のバランス異常の評価では、SEFsの起源である体性感覚野がてんかん原性領域となる若年生ミオクロニーてんかん(JME)患者と健常者で比較検討を行った結果、両者で潜時に差を認めないが、振幅に関してJME患者でSEFs第3波が健常者より増大することが明らかになった。SEFsの振幅への影響因子として、抗てんかん発作薬の関連が考えられたため、実際に影響があるかをJME患者で追加検討した結果、JMEにおけるSEFsの振幅増大と抗てんかん発作薬の間には有意な相関関係を認めなかった。 健常者における研究では、20代の健常者の正中神経刺激SEFsデータを用いて、覚醒・睡眠の影響を調べたところ、SEFsの第1波において睡眠で潜時が延長することが明らかとなった。また、20代の健常者の正中神経刺激中の脳磁図では、刺激のトリガーに合わせて棘波様の活動が検出されていた。これは、体性感覚誘発棘波(SES)とよばれる所見で、小児の頭皮脳波での報告しかなく、成人での報告はなかった。成人のSESsに関して、現在英語論文を投稿中である。
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