経カテーテル的再開通療法は超急性期脳梗塞に対する最も有効な治療法である。しかし一部では、再開通を迅速に得ることが出来ず、良好な転帰を得られない場合がある。申請者らは、人工心臓装着中に生じた脳塞栓症は治療に抵抗性であることに着目し、人工心臓に関連した血栓と一般的な心房細動などで形成された血栓を比較したところ、血栓性状が異なることを発見した(北野ら. J Neurol Sci. 2020)。次に申請者は、このような一部の血栓が治療抵抗性を示す原因を明らかにする必要があると考えた。そこで、血栓中の白血球数やその分画が経時的にダイナミックに変化することに着想を得て、血栓に経時的に生じる免疫学的な修飾が治療に影響を与えているのではないかと仮説を立てた。申請者は脳塞栓症患者から回収した血栓を病理学的に検討し、古い血栓が脳塞栓症の原因となっていた患者では新鮮な血栓の患者に比して再開通が得られにくいことを明らかにした。古い成熟した血栓は、赤血球成分が少なく、CD163陽性細胞が多く、neutrophil extracellular trapsが増加していた(北野ら. Thromb Haemost. 2021)。これらの結果より、脳塞栓症の原因は血栓が形成されることだけではなく、形成された血栓が適切な線溶を受けずに経時的に成熟し物理的生化学的に強固となることも影響していると考えられた。本研究の成果は、血栓の成熟阻害が脳塞栓症の予防の新たな標的となり得る可能性を示唆するものであった。悪性腫瘍関連の脳梗塞で認められる血栓は一般的な血栓とは性状がことなることが知られており、今後は本成果を悪性腫瘍関連血栓症に応用する予定である。
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