研究実績の概要 |
次世代シークエンサー (NGS) による網羅的遺伝子解析技術の拡大により, ゲノム配列データは蓄積され続けている.しかし, 実際に全エクソーム解析 (WES) のデータからそれぞれの疾患患者における原因遺伝子を同定するのは, 非常に困難な作業である。これまでにも, 様々な解析法が考案されてきたが, 幅の広い疾患に適応するのは困難である. 一方で, 2015年にアメリカ臨床遺伝学会から遺伝子変異の病原性を推測するACMGガイドラインが提示され、それを元に各遺伝子変異の病原性判定を行うことが一般的となった。しかし, ガイドラインに基づいた病原性判定には, 複数のコントロールデータベースとの比較や, コンピーターを用いた変異の機能解析(in silico analysis)を複数行うことなどが必要とされており, その判定を1サンプルあたり数万もの変異が検出されるWESデータに対して行うのは, 非常に煩雑である. その一方で、臨床現場では原因不明の遺伝性疾患に対して, 日常的にWESを行う状況であり, 判定の自動化/簡便化は不可欠である. そのため, WESデータを中心としたを含めた網羅的遺伝子ゲノムデータの解析にあたり, 全ての変異に対して自動的に情報付けを行うプログラムを作成し, 解析を効率化するシステムを構築し,今年度解析を継続した.その結果として, 既知遺伝子で少数の報告しかない稀な遺伝子を含めて複数の遺伝子変異を日本人症例で同定し, 臨床情報や遺伝学特徴をまとめ, 論文化を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在構築した解析パイプラインにて, 効率的な解析が可能となっている. また全症例の遺伝子データから, 条件を満たす変異 (A遺伝子の変異, コントロールにない変異, ホモ接合性変異など)を一括に抽出するシステムも構築した.それらのシステム運用に伴い, 既知遺伝子で少数の報告しかない稀な遺伝子を含めて複数の遺伝子変異を日本人症例で同定し, 臨床情報や遺伝学特徴をまとめ, 論文化を行うことができた.また構造多型解析においてPython言語を用いたConiferを使用していたが,より簡便かつ精度の上昇が見込めると判断し, Covcopcanによる解析へと変更した.遺伝性ニューロパチーの網羅的遺伝子解析情報とCovcopcanを併用することで新規の欠失を含めた複数の構造多型を同定した.
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今後の研究の推進方策 |
現在ショートリードシークエンサーを主に用いて, 対象遺伝子を限定したパネル解析と対象遺伝子を限定しない全エクソーム解析をおこなっている.またコピー数多型においても以前使用していたConiferから, Covcopcanに変更することでより簡易かつ正確に解析を行うことが可能となった.しかし, 近年は複数の遺伝性神経疾患において新規のリピート異常伸張が報告されている.そのため今後はロングリードシークエンサーを用いた解析を進めていく必要がある.当実験室では既にロングリードシークエンサーを有しているため,ロングリードを用いた解析を進めていく予定である.
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