ポリグルタミン病などの神経変性疾患では、分子シャペロンーユビキチンープロテアソーム系(UPS)やオートファジーの機能を凌駕して変異蛋白質が蓄積し、神経変性が惹起される。神経変性疾患の発症時期に中年期以降が多いのは、加齢と共に蛋白質分解系の機能が衰えてくることが一つの原因と考えられている。従って、オートファジーは神経変性疾患の重要な治療ターゲットとして注目されている。ポリグルタミン病である歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は、原因遺伝子内のCAGリピートの異常延長により病因蛋白質の神経組織内への異常な蓄積が生じて、ニューロンなどが特異的に変性死に陥る。DRPLAの若年発症型・早期成人型は進行性ミオクローヌスてんかん(PME)を呈する神経変性疾患で、原因遺伝子はatrophin-1である。進行性で予後不良の転帰を辿るPMEを呈する疾患として本邦で最も多いのがDRPLAであり根治的治療方法がない。一方、PMEの一つであるLafora病では、mTORを阻害することが病態改善につながっている。私達は、生薬の有効成分である種々のフラボノールにオートファジー活性化作用を見い出した。本研究では、mTOR阻害やオートファジー活性化の病態改善効果を検討するため、フラボノールの一つであるケンペロール(Kaempferol)をDRPLAの細胞及び動物モデルに投与して病因蛋白質の選択的な分解効果やてんかん抑止効果を解析した。ケンペロールの投与によって細胞モデルでは、オートファジーの活性化による病因蛋白質である変異したatrophin-1蛋白質の減少効果を確認した。ケンペロールの投与によってリン酸化beclin-1の発現が上昇しオートファジー活性化をもたらしたと考えられた。ポリグルタミン病であるDRPLAマウスモデルにケンペロールを6週齢より連日投与したが表現型に変化はみられなかった。
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