次世代型抗うつ薬として非モノアミン系を標的とした薬剤開発が期待されているものの、動物試験で有効であっても臨床試験では効果不十分であったり、重篤な副作用が出現して開発が中断している。基礎研究から応用研究への展開の阻害要因として以下の点が指摘されている。1) 妥当性の高いうつ病モデルマウスを使用していない、2) 遺伝的多様性が無視されている。本研究では、従来の問題点を克服した新しい研究アプローチを用いることで、抗うつ作用に関わる新たな分子メカニズムを同定することを目的とする。2021年度は、遺伝的背景の異なる3種類の近交系マウスに各種抗うつ薬(三環系、四環系、SSRI、SNRI)を投与し、抗うつ薬反応群・非反応群マウスの前帯状皮質領域の遺伝子発現変動をRNA-seqにより解析した。得られた遺伝子発現データから、反応群に特徴的な遺伝子・パスウェイを探索し、候補遺伝子としてCartpt遺伝子を抽出した。2022年度は、Cartptの抗うつ作用に対するメカニズムをより詳細に検討した。その結果、抗うつ薬反応群におけるCartptの発現上昇は抑制性ニューロンで生じていることを見出した。また抑制性ニューロン選択的にCartptを過剰発現させたマウスはストレスレジリエンスを示した。さらに、テトラサイクリンシステムを用いて空間時期特異的にCartptを発現誘導可能なマウスを作製し、うつ状態のマウスの抑制性ニューロンに対してCarptを過剰発現させたところ、抗うつ様行動を示した。以上の結果から、抑制性ニューロンにおけるCartptの発現誘導が抗うつ様行動の発現に重要であることが示唆された。
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