研究課題
健常者を対象とした研究でオミクス的研究手法を用い、脂質代謝産物と自律神経活動の関連が指摘されたが、精神疾患患者を対象としたものは前例がない。そこで本研究では統合失調症患者を対象に脂質のメタボローム解析、リン酸化プロテオミクス解析、ゲノムワイドメチル化関連解析を行い、それらを統合解析し、健常者と比較した脂質代謝制御異常を明らかにすることを目的としている。さらに、代表的な抗精神病薬投与下の条件で脂質代謝制御の変化を探り、脂質代謝におけるトランスオミクスネットワーク異常が心血管性突然死に及ぼす影響を明らかにし、統合失調症患者の生命予後不良の背景にある病態を解明したいと研究を開始し、プレリミナリー研究として位置づけている。未治療もしくは治療中断1ヶ月以上の統合失調症患者に研究に参加してもらうため、関連病院でも患者のリクルートを行えるよう倫理委員会に申請を行い、関連施設との連携を開始した。また、当院で統合失調症患者を対象に検体収集を開始し、キットを用いたDNA抽出、検体の保管、精神症状の評価、心拍変動パワースペクトル解析を用いた自律神経活動測定、臨床症状の評価、薬物履歴の調査を行った。経過の中で、抗精神病薬持効性注射剤使用者が、経口剤使用者より心血管死亡が少ないと報告があり、剤型の病態との関連も疑われ、リクルートをさらに行った上で、アリピプラゾール持効性注射剤単剤使用者50例、アリピプラゾール経口剤単剤使用者72例で自律神経活動を比較し解析を行ったところ、アリピプラゾール持効性注射剤の方が、自律神経活動、特に交感神経活動への悪影響が少ないことが明らかになった。これを論文としてまとめ国際誌に発表した。さらに、学会参加を行い、研究成果の発表、情報収集、知識の習得に努めた。
4: 遅れている
新型コロナウイルスの影響で入院および外来治療が大幅に縮小されたため、患者のリクルートが遅れた。また、他施設へ赴くことも制限されたため、リクルートが遅れた。
本研究は、初めての、統合失調症において脂質代謝に着目したオミクス解析であり、プレリミナリーな研究と位置づけている。抗精神病薬を単剤ですでに治療中の患者については、該当者が多く検体収集が行いやすいため、集中してリクルートを行い、脂質代謝を網羅的に調査し、薬剤ごとで影響を比較する解析を行っていく。対象者が少ないが、治療中断もしくは未治療の患者に研究に参加してもらい解析を行うため、少数でも一例一例丁寧に該当患者のリクルートを行っていきたい。そして、抗精神病薬投与後に、2度目の測定、解析を行い、薬剤の影響を明らかにしていく。サンプル数が集まってから、エピジェネティック変化を調べるため、メチル化率を調査する解析を行っていく予定である。
新型コロナウイルスの影響でサンプルの収集が遅れた。サンプル数をまとめて解析した方が効率が良いため、当該年度では解析に関する費用が生じなかったが、次年度以降使用していく予定である。さらに、サンプル収集に伴い、実験と解析にまつわる備品、消耗品の購入が必要となり、次年度以降に使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
BMC Psychiatry
巻: 23 ページ: 135
10.1186/s12888-023-04617-y