研究実績の概要 |
双極性障害をはじめとする気分障害とミトコンドリアDNA (mtDNA) ヘテロプラスミー変異との関連を検証するために、死後脳におけるmtDNAヘテロプラスミーを一分子単位で検出し、疾患群と対照群を比較した。分子バーコードを用いて一分子レベルの解像度で変異を検出し、対象試料には、双極性障害患者・対照健常者に加え、疾患コントロールとして統合失調症患者由来試料を用いた。本年度は、昨年度までの累積78試料に加え、新たに双極性障害患者・対照健常者・統合失調症患者由来死後脳DNAを追加し、累積計105試料に、分子バーコードを用いたmtDNAシーケンス・情報解析方法を適用した。AGeNT, fgbioを用いたエラー率10e-7未満の解析パイプラインを適用し、高精度に一分子単位の変異を検出した。並行して、PCR 重複を除外して低アレル割合の変異を検出する一般的な変異探索も行い、アレル割合1%以上の変異を網羅的に検出した。結果、双極性障害では二例からミトコンドリア病MELASの原因変異であるm.3242A>Gが数%のヘテロプラスミーとして検出され、コントロール群では同種の変異が検出されなかった。計画仮説1「双極性障害では病的ヘテロプラスミーが多い」に支持的かつ、Munakata et al. 2005と合わせて双極性障害でのエンリッチメントを強く示唆する結果となった。mtDNA一塩基あたりの変異数は、本年度の解析を追加しても、双極性障害・統合失調症・コントロールで差はなく、計画仮説2「双極性障害ではmtDNA一塩基あたりの変異率が高い」に否定的な結果であった。以上から、mtDNAと双極性障害の関連は、数%以上の病的なヘテロプラスミーにある可能性が高いと考えられ、本計画の仮説検証を十分に行えたと考える。2023年度時点で論文草稿を準備完了とし、近日投稿予定である。
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