本研究の目的は、統合失調症の自閉症的特性に着目し、自閉症的特性と治療抵抗化の相関性を検討すること、さらに自閉症的特性とオキシトシン系システム/バソプレシン系システムとの相関性を検討することである。 近年、統合失調症の自閉症的特性を評価する目的で、PANSS autism severity score(PAUSS)が用いられており、様々な報告がなされてきているが、本研究でもPAUSSを用いて自閉症的特性を評価している。 本研究で得られた成果として、PAUSSのスコアが高い群では低い群と比較し、精神症状の重症度が高い可能性が示唆された。さらに、認知機能障害について、Matrics Consensus Cognitive Battery(MCCB)を用いた結果では、PAUSSのスコアが高い群では、低い群と比較し、社会認知機能障害がより重篤であることが明らかとなった。その一方、2群間の神経認知機能障害には有意な差は認められなかった。 また、PAUSSとオキシトシン関連遺伝子/バソプレシン関連遺伝子との相関性を検証した結果、バソプレシン受容体遺伝子の遺伝子変異とPAUSSに相関がある可能性が考えられた。具体的には、バソプレシン 1a受容体のRS1、バソプレシン1b受容体のrs28632197が関与する可能性が示唆される結果となった。 これらまとめると、自閉症的特性(PAUSS)が高い群では、陽性症状や陰性症状のみならず、社会認知機能障害が重篤であり、治療抵抗性に至る傾向がある。そして、その生物学的背景にはバソプレシン系システムの調整障害が関与している可能性が示された。これらの結果は、統合失調症の治療抵抗化に関与する因子として意義のあるものであり、症候学的、生物学的にも重要な結果であると考えられる。
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