本研究課題の目的は、レム睡眠行動障害患者の体験する不快な夢体験と関連する神経生理指標を明らかにすることである。特発性/孤発性レム睡眠行動障害(idiopathic/isolated REM sleep behavior disorder: iRBD) は、パーキンソン病やレビー小体型認知症の前駆状態と考えられている。iRBD からこれらの神経変性疾患に進展するまでの期間は、数年から十数年と幅広い。夢の行動化は、RBDで見られる特徴的な症状である。夢を見てそれを演じる過程の関して、病態はよくわかっていない。夢内容行動化のプロセスを明らかにすることで、RBD 自体の病態の理解が深まるだけでなく、パーキンソン病やレビー小体型認知症への進展について新たな知見が得られる可能性がある。 研究期間全体を通して、iRBD 患者の睡眠ポリグラフ検査の脳波データを収集・解析した。睡眠ポリグラフにおける特定のコネクティビティが、夢内容行動化と関連する可能性があることを認めた。解析結果は学術集会で発表した他、論文として投稿した。なお、研究当初着目していた心拍変動に関する指標については、今回の研究では夢の行動化との間に明らかな関係は認めかったが、今度の検討を要する課題であると判断している。 また、iRBD の精神症状の理解を深めるために、iRBD における抑うつ状態の有病率を、系統的レビューを実施することで調査した。その結果、約3割の iRBD 患者において抑うつ状態を合併することが明らかになった。さらに、iRBD 患者における精神症状の合併についてのシンポジウムを国際学会で実施した。神経変性疾患における精神症状の合併は、世界的に高齢化が進む中での重要な課題であり、精神症状の理解や対応方法を検討する必要がある。
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