研究課題/領域番号 |
21K15752
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中村 匠 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (40881123)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / ヒストンメチル化 / 遺伝子改変マウス / iPS細胞 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(以下、自閉症)は、社会性の変化や固執行動を特徴とし、幼少期から顕在化する神経発達障害である。1%以上の高い有病率を示す一方で、発症機序が解明されていないために根本的な治療方法が確立されておらず、社会的影響も大きい。近年の大規模な遺伝学的解析により、遺伝要因が発症に寄与していることや、統計学的に有意な関連がみられる遺伝子が多数報告されている。しかし、各遺伝子については、実際に自閉症発症に寄与するか、寄与しているとした場合、どのような機序で発症しているのかなどは、そのほとんどにおいて解明されていない。 本研究では、自閉症患者で有意に多くの変異がみられるヒストンメチル化転移酵素に着目し、遺伝子改変マウスを用いた病態解析を行った。具体的には、すでに樹立済み、かつ、自閉症様行動を示すことを明らかにしている、上記遺伝子のヘテロ遺伝子欠損改変マウスの脳サンプルを用いて、上記遺伝子の欠損がもたらすトランスクリプトーム変化をRNA-seqにより解析した。そのほか、RNA-seqの解析結果から示唆される形態変化を調べるため、脳凍結切片を用いた免疫組織学染色を行った。次年度以降は、ヒトサンプルを用いたトランスレーショナル研究や、薬剤効果を調べる創薬実験を計画している。 本研究で着目したヒストンメチル化は、自閉症に限らず様々な精神神経疾患との関与が明らかにされているため、本研究は自閉症発症機序解明に留まらず、他の精神神経疾患の病態研究にも寄与できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳サンプルを用いたRNA-seq解析により、遺伝子改変マウスにおいて、様々な遺伝子群が発現変動していることを見いだした。特に、シナプスやミエリン、樹状突起といった神経機能に関わる遺伝子群が変動していることを、gene ontology解析によって明らかにした。近年、自閉症モデルマウスでミエリンの形成変化が報告されていたことから、幼若マウスの凍結脳切片を用いた免疫組織学によって、オリゴデンドロサイト前駆細胞の数が有意に異なっていることを明らかにし、トランスクリプトームの変化と、それに起因すると予測される形態学的変化を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はおおむね計画通りに進行しており、引き続き、計画通りの実験を行う。具体的には、マウスを用いた解析で示唆されたミエリンの形成変化やシナプスの形成などが、実際にヒトでも見られるのかを明らかにするために、すでに樹立済みの遺伝子変異保有患者由来iPS細胞を用いた、神経分化能解析や、ヒト由来サンプルにおけるトランスクリプトーム変化の解析を行う。成熟した神経系が得られない可能性も考えられるため、上記実験に困難が生じた場合などは、3次元培養による脳オルガノイド解析も検討する。
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