研究課題
自閉スペクトラム症(以下、自閉症)は、社会性の変化や固執行動を特徴とし、幼少期から顕在化する神経発達障害である。1%以上の高い有病率を示す一方で、発症機序が解明されていないために根本的な治療方法が確立されておらず、社会的影響も大きい。近年の大規模な遺伝学的解析により、遺伝要因が発症に寄与していることや、統計学的に有意な関連がみられる遺伝子が多数報告されている。しかし、各遺伝子については、実際に自閉症発症に寄与するか、寄与しているとした場合、どのような機序で発症しているのかなどは、そのほとんどにおいて解明されていない。本研究では、自閉症患者で有意に多くの変異がみられるヒストンメチル化転移酵素に着目し、遺伝子改変マウスを用いた病態解析を行った。具体的には、すでに樹立済み、かつ、自閉症様行動を示すことを明らかにしている、上記遺伝子のヘテロ遺伝子欠損改変マウスの脳サンプルを用いて、上記遺伝子の欠損がもたらすトランスクリプトーム変化を解析した。さらに、対象遺伝子の欠損による細胞内分子機能の変化をレスキューすると予測される薬剤が、樹立した遺伝子改変マウスの自閉症様行動を改善することを見いだし、治療応用につながる結果を得た。次年度は、ヒトサンプルを用いたトランスレーショナル研究まで発展することを検討している。なお、本研究で着目したヒストンメチル化は、自閉症に限らず様々な精神神経疾患との関与が明らかにされているため、本研究は自閉症発症機序解明に留まらず、他の精神神経疾患の病態研究にも寄与できると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
マウス脳サンプルを用いたトランスクリプトーム解析によって、遺伝子改変マウスでは自閉スペクトラム症に関わる既知の遺伝子の一部が変動していることを見いだし、今後の研究の展開につながる結果を得た。また、遺伝子改変マウスの行動変化を改善する薬剤同定とその分子基盤に迫る結果を得た。
本年度はおおむね計画通りに進行しており、引き続き、計画通りの実験を行う。具体的には、トランスクリプトーム解析で同定した所見から示唆される細胞内機能や形態の変化について、実際にヒトでも見られるのかを明らかにするために、すでに樹立済みの遺伝子変異保有患者由来iPS細胞を用いた解析を行う。上記実験の展開次第では、3次元培養による脳オルガノイド解析も検討する。
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Molecular Psychiatry
巻: N/A ページ: N/A
10.1038/s41380-023-02005-2