研究課題/領域番号 |
21K15764
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野橋 智美 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (00886319)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Tim-3 / 疲弊化免疫細胞 / immunoPET / 悪性黒色腫 |
研究実績の概要 |
マウスの血行転移性癌モデルを作成した。ルシフェラーゼ導入済の悪性黒色腫細胞株B16-F0を尾静脈より注射し、2週間後に蛍光イメージングにて微量のシグナルを主に胸腔内(肺転移、縦隔リンパ節転移、播種として)に検出、毎週観察したところ、経時的に腫瘍が増大し、約4週間後に死亡することが確認された。 続いて治療介入を検討した。まずSTINGワクチンをB16-F0の細胞片と同時に皮下注射することで、免疫原性を高めて腫瘍縮小するかを確認したが、無効であった。STINGワクチンは溶媒の調整に難渋したため、CpGワクチンに変更することとした。また、血中転移モデルの急速な経過からは、単剤では効果不十分であることが予測されたため、免疫チェックポイント阻害薬を追加、また免疫原性を高めるために皮下腫瘍を追加で作成し、そこにCpGワクチンを導入することとした。尾静脈注射1週間後にマウス左足皮下に腫瘍を新たに移植し、その1週間後にPD-1阻害薬とLAG-3阻害薬各々200マイクログラムを腹腔内注射、CpG-ODNワクチン200マイクログラムを皮下腫瘍内注射(CpG-ODNのみ3日後に再度注射)した治療群、PD-1阻害薬とLAG-3阻害薬のみのコントロール群に分けて観察した。しかし、これらにも治療効果の差はみられなかった。一方で、免疫チェックポイント阻害薬治療に反応する個体が一部にみられた。そこで、尾静脈注射後2週間よりPD-1阻害薬200マイクログラムを3回投与した治療群と無治療のコントロール群に分けて観察した。1匹のみ一時的に明瞭な腫瘍縮小がみられたが、他は明らかな治療効果がなかった。PD-1阻害薬とLAG-3阻害薬治療で治療効果のなかったマウスでの免疫染色にて、脾臓内のTim-3発現が治療効果のみられたマウスと比べて目立つ印象はあったが(これが真だとすると疲弊した免疫細胞の増加を反映している可能性あり)、再現性を確認する必要があると考えている。現在追加で免疫染色を依頼中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
主な理由は3つある。 一つには実験可能な期間が短かったことである。産後の回復が遅く、フルタイムに復帰したのは2022/7月から、また実際に実験を開始できる体調に戻ったのは9月からである(その後、可能な限り実験の時間を確保し再開、継続中である)。 また、実験再開後も、血中転移モデルの発育経過、治療レジメンの検討に時間を要した。 また、Covid-19ウイルスによる海外入国者制限のため、当施設でZr-89を生成するためのサイクロトロンの設定が大幅に遅れている。このため、Zr-89標識のPET製剤の作成にも取り掛かることが難しい状況である。
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今後の研究の推進方策 |
血中転移モデルはなかなか治療薬への反応が限定的となるため、より積極的な治療が必要となることが判明した。次回はPD-1, LAG-3阻害薬の併用を複数回行うことで、治療効果のある群とない群でより差別化を図れるのではないかと考えている。そこでTim-3の発現に差が見られれば、PETでの視覚的な差も確認できるのではと期待している。 サイクロトロン設定に必要な海外技術者の渡航は本年度早々に実現する見込みであり、Zr-89の生成およびPETプローブの合成も今年度半ばには達成できると予測している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が計画時よりも遅れており、物品費用に消耗していないため。また、PETプローブ合成や撮影費用など、高額な費用発生は実験計画の後半に盛り込まれているため。
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