研究実績の概要 |
[目的]放射線治療において、歯冠を含む口腔内を照射し得る。X線照射された歯冠の上流に口腔粘膜がある場合、歯冠の周囲のみに限局して、強い粘膜炎が生じることが知られていた。これまで、物理計算や線量測定手法により金属周辺の線量増加が推定されてきた。しかし、金属周囲の線量増加が腫瘍に与える生物学的効果比(RBE)についてはよくわかっていなかった。 [方法]本研究では、コロニー形成法ならびに53BP1フォーカス形成法を用いて金属周囲の生物学的効果について評価を行った。また、その実験系をParticle and Heavy Ion Transport code System (PHITS)コードを用いてシミュレートし、電子の物理過程のみからDNA鎖切断量を推定し、生物学的実験とシミュレーションの結果と比較した。さらに、得られたRBEを用いて、頭頸部癌患者への放射線治療における口腔粘膜の線量増加についてPHITSを用いて計算した。 [結果]コロニー形成法、及び53BP1フォーカス形成法から求めた増感剤効果比(SER)は1.2-1.3であった。PHITSコードから求めた金属周囲のRBEは1であり、SERと金属周囲の線量増加比は高い相関を示した。細胞実験から得られたSERとPHITSにより計算したSERはそれぞれよく相関することがわかった(R2 = 0.8709, R2 = 0.8565)。またPHITSコードによるシンプルな四面体ファントムを用いた場合、対向2門照射における歯冠からの距離1mmにおけるSERは1.2-1.33であった。 [結論]細胞実験により求めた金属板近傍の距離1mm以上におけるSERをPHITS計算により推測可能であることが示唆された。今後は四面体ファントムを用いてPHITSコードでシミュレーションすれば、金属留置下でも正確な線量分布を計算可能になると考えられる。
|