本研究は、放射性核種であるTc-99mで標識した合成糖たん白(Tc-99m-GSA)による肝シンチグラフィを例として、患者ごとに異なる放射性薬剤の代謝や形態学的差異を考慮した内部被ばく線量の評価手法を確立することを目的として実施した。昨年度までに、Tc-99m-GSAの体内動態を再現するためのコンパートメントモデル(体内動態モデル)を構築し、肝シンチグラフィの結果から血液及び肝臓に関連する移行係数を患者ごとに最適化した。本年度は、最適化した移行係数に基づき、Tc-99m-GSAが尿中・便中排泄に至る体内動態モデルを解析し、各臓器・組織におけるTc-99mの壊変数を計算した。また、各患者のCT画像から数値ファントムを作成し、肝臓を線源領域、肝臓、胆嚢及び腎臓を標的領域とした場合のS値(線源領域で1壊変した場合の標的領域の線量)を放射線輸送計算によって評価した。本研究で計算した壊変数とICRP標準男性及び女性に対するS値に基づき、「個人の代謝」を考慮して評価した肝臓線量の相対誤差は、男性(27名)に対して26.9%、女性(17名)に対して16.9%であった。さらに、ICRP標準男性及び女性に対するS値を各患者の数値ファントムから計算したS値に置き換えて、「個人の代謝及び形態学的差異」を考慮して評価した肝臓線量の相対誤差は、男性に対して29.8%、女性に対して23.8%であった。本研究で評価した肝臓線量について、男性は代謝に起因する壊変数のバラつき、女性は形態学的差異に起因するS値のバラつきが大きく、一概に代謝又は形態学的差異のどちらか一方が吸収線量のバラつきに大きく寄与するとはいえず、個人の内部被ばく線量評価にあたり両方を考慮すべきであることが示唆された。
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