血清アルブミンは34番目のシステイン残基[Cys34]の酸化還元状態に応じて以下の3種に分類される。-SH(Human mercaptalbumin [HMA])、-S-システイン(Human non-mercaptalbumin1 [HNA1])、-SOOHなどの不可逆的酸化型(Human non-mercaptalbumin2 [HNA2]、生体中にわずかしか存在しない)。血清アルブミンは血清タンパクの6割を占めるため、Cys34の酸化還元状態、特にHMAとHNA1の割合は血管内の酸化ストレスのマーカーとされる。そこで本研究課題では、血管内酸化ストレスを反映する血清アルブミンCys34の酸化還元状態とがん増殖・進展との関連性を探索した。前年度までに研究代表者は、分化型甲状腺癌症例において血清中のHMA濃度が高い症例では、無増悪生存期間が有意に延長すること、In vitroにおいて、HMA濃度の高い培養条件では甲状腺癌細胞株に著明な細胞死が見られること、およびHNA1濃度の高い培養条件では細胞は増殖・生存を維持すること、を明らかにした。これらの結果を踏まえ、最終年度は、HMAの殺腫瘍メカニズムを探索した。成果として、HMAは甲状腺癌細胞のグルタチオン合成を阻害し、脂質過酸化とそれに続くフェロトーシスを誘導することを発見した。さらにHNA1はCys34に結合するシステインを細胞に提供し、グルタチオン合成の維持、脂質過酸化およびフェロトーシスの抑制に寄与することも明らかにした。以上、本研究課題全体を通じて、血清アルブミンのCys34残基の酸化還元状態は、甲状腺癌細胞におけるフェロトーシス制御に関わる因子であることが明らかとなった。今後、臨床応用可能な血清アルブミンCys34の還元維持法を探索し、フェロトーシスを介した新規抗がん治療の開発を目指す。
|