研究課題/領域番号 |
21K15826
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂田 昭彦 京都大学, 医学研究科, 助教 (10838981)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳腫瘍 / 低酸素 / 糖代謝 / PET / MRI |
研究実績の概要 |
本研究は、isocitrate dehydrogenase-1(IDH1)変異によって生じる腫瘍内代謝および微小環境の変化に着目し、MRIから得られる種々のイメージング・バイオマーカーに、PETを用い た糖代謝および低酸素イメージングを組み合わせることで、神経膠腫における分子生物学的プロファイルの評価法の確立を目指すものである。 今年度は、低酸素領域に集積する18F-fluoromisonidazole (FMISO)-PETを用い、神経膠腫のIDH1変異との関係を評価した。具体的には、当院でFMISO-PETを行った45例の神経膠腫患者から得られた画像情報を基に、IDH1変異の有無や組織学的悪性度に応じて腫瘍内部の低酸素状態に違いが生じるかどうか検討した。 まず、神経膠腫では、組織学的悪性度に応じて腫瘍内の低酸素状態は有意に異なることを確認した。すなわち、低悪性度神経膠腫に比べ高悪性度神経膠腫では18F-FMISOの有意な集積亢進を認め(P<0.01)、FMISO-PETは両者の鑑別に極めて有用であった(AUC=0.96)。また、低悪性度神経膠腫においては、IDH1変異の有無にかかわらず低酸素領域の広がりには大きな違いを認めなかった一方で、高悪性度神経膠腫を含む検討では、IDH1野生型の方がIDH1変異型と比べ、より高度な低酸素状態に陥っていることが分かった。 同一の患者群を対象に、腫瘍内の細胞密度を反映する見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)でも同様の検討を行った。我々の検討では、神経膠腫のIDH1変異の有無で層別化した場合、ADC値に有意差を認めなかったが(P>0.05)、ADCと18F-FMISO-PETを組み合わせることでIDH1変異の予測精度が向上することが分かった(AUC=0.74)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回得られた結果は、現在論文は国際誌に投稿(改稿)中であり、その一部を次年度の国内学会にて発表予定である。 本年度もコロナ禍に見舞われた一年であったが、当院での18F-FDG-PET/MRIの実施回数および18F-FMISO-PET研究の参加者数はともに順調に推移している。 さらに、本年度はcompressed sensingを用いたMR-DSA法の有用性について検討を行った。本手法を用いることで、従来法と比べ造影剤の低減及び時間分解能の向上が得られたことから、研究内容を国際誌に投稿し、受理された。本研究では血管奇形・動静脈瘻を主たる対象としたが、脳腫瘍の血流動態の評価にも応用可能であり、患者負担の低減につながる手法と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、当院において18F-FDG-PET/MRIの撮影と18F-FMISO-PET研究への参加を呼び掛けていく。 今回の初期検討を通して、今後研究を進める上での課題も明らかとなった。まず、低悪性度神経膠腫では低酸素領域が乏しく、他modalityから得られる画像情報との対比が難しいこと、さらにIDH1変異型の高悪性度神経膠腫の頻度が比較的稀である、という点が挙げられる。こうした課題に配慮しつつ、次年度は神経膠腫内の低酸素領域の評価手法の確立を目指す。 さらに、2021年に入りWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、IDH1遺伝子以外にもtelomerase reverse transcriptase promoterなどの遺伝子変異やメチル化プロファイルといった情報が、神経膠腫の診断および予後予測に重要な因子として広く知られるようになってきた。こうしたIDH1以外の遺伝学的情報についても、低酸素領域や糖代謝といった腫瘍内微小環境や、MRIから得られる機能情報を用いることで、術前に予測することができないか、さらなる検討を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はtracer(FMISO)合成にかかる諸経費が比較的低く抑えられたことに加え、コロナ禍に伴う行動制限があり、発表の機会はあったが学会参加等にかかる費用が殆ど生じなかったことなどが原因として挙げられる。 今年度においては、本年度以上に精力的に学会に参加し研究成果の発表を行うとともに、解析に必要なPC・ソフトウェアの購入、tracer合成など研究に必要な諸経費に充てたいと考えている。
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