研究課題/領域番号 |
21K15861
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
平林 耕一 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (10645534)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | EGFR / IGF1R / CAR-T細胞 / piggyBacトランスポゾン法 / 肺腺がん |
研究実績の概要 |
CAR-T細胞療法の標的として、上皮成長因子受容体(EGFR)とインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)を選択した。細胞株は、過去にEGFRとIGF1Rが共に発現していると報告されている肺腺がんを選択した。 まず、フローサイトメトリー法により、細胞株におけるEGFRおよびIGF1Rの発現を評価した。EGFRはA549、H1975、HCC827において評価したが、いずれの細胞株もEGFRの発現が認められた。IGF1Rは、10種類の肺腺がん細胞株で評価した。そのうち、A549、H1568、H1355においてほぼ100%の発現が認められた。 次にEGFR CAR-T細胞およびIGF1R CAR-T細胞の作製をpiggyBacトランスポゾン法を用いて行った。両者ともday 10の時点で平均50%以上のCAR陽性率であった。また、CAR-T細胞の増殖も良好だった。T細胞のフェノタイプは、CD45RA+CD62L+細胞が大半を占めており幹細胞メモリー分画比率が高いことが判明し、質の高いCAR-T細胞であることが明らかになった。 それぞれのCAR-T細胞が抗腫瘍効果を認めるか、E:T比4:1、2:1、1:1:、1:2、1:4の5条件でEGFRまたはIGF1R陽性肺腺がん細胞株と共培養を実施した。EGFR CAR-T細胞およびIGF1R CAR-T細胞は、それぞれEGFR陽性、IGF1R陽性肺腺がん細胞株に対して抗腫瘍効果を示した。また、共培養開始24時間後に採取した培養上清をELISA法を用いてIFN-gammaとIL-2濃度を測定した。コントロールと比べてCAR-T群では有意に高いサイトカイン濃度を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、2種類の分子を標的とした二重特異性CAR-T細胞を作製することが最終目的である。したがって、標的となる2種類の分子について、それぞれCAR-T細胞を新規に開発するか、もしくは過去に開発したCAR-T細胞を使用することになる。過去に我々が開発したCAR-T細胞はいくつかあるが、それぞれの標的分子が一つの腫瘍に共発現している割合が低かった。そのため今回は、新規のCAR-T細胞の作製から行った。新規のCAR-T細胞の作製には①標的分子の決定、②CAR-T細胞作製のためのベクター開発、③CAR-T細胞の作製、④標的抗原を有する腫瘍株に対する抗腫瘍効果の評価、の手順を経なければならず時間と労力がかかる。したがって、令和3年度に2種類の新規CAR-T細胞を開発できたのは、進捗として十分であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoにおいてEGFR CAR-TとIGFR CAR-Tが単独でもある程度の抗腫瘍効果が得られるかNSGマウスを用いて評価する。抗腫瘍効果が認められた場合、EGFRとIGF1Rの2種類を標的とするdual-targeting CAR-Tの作製に着手する。抗腫瘍効果が認められないCAR-T細胞があった場合は、そのCAR-Tを別の分子を標的CAR-Tに変更する。 Dual-targeting CAR-Tの作製の手順は以下の通りである。EGFR CARとIGF1R CARの2種類のCARを搭載した新規のベクターを設計する。2種類のCAR配列を結合させるだけでは相同性が高くDNAの読み間違いに繋がるため、塩基配列を変更し相同性を低くしたベクターを人工的に作製する。次に、piggyBacトランスポゾン法を用いてT細胞に遺伝子導入を行い、dual-targeting CAR-T細胞を樹立する。dual-targeting CAR-T細胞の抗腫瘍効果をEGFR CAR-TとIGFR CAR-Tと比べることにより評価する。まずはin vitroでの評価を行い、抗腫瘍効果が改善していた場合はin vivo試験を実施する。
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