研究課題/領域番号 |
21K15867
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
鈴江 真史 徳島大学, 病院, 助教 (00897514)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 新生児急性呼吸窮迫症候群(nARDS) / 血管内皮細胞障害 / sFlt-1 / VEGF / ヘパリン |
研究実績の概要 |
2017年に新たな定義として提唱された新生児急性呼吸窮迫症候群 (nARDS)は、肺血管内皮細胞障害による血管透過性亢進に起因する肺浮腫を主病態とした新生児 の重篤な呼吸障害である。本研究は母体妊娠高血圧症候群HDPや絨毛膜羊膜炎CAMの胎児では血管内皮増殖因子VEGFが胎盤からのsFlt-1(可溶性VEGF受容体であり、VEGFの抑制因子として働く)によって抑制されており、生後酸化ストレスを受けることによってリバウンドのVEGF上昇が起こり、血管内皮細胞障害によるnARDSが発症するとの仮説を立て研究を開始した。 徳島大学病院周産母子センターで出産したHDP、CAMの母体および早産児の血清をMILLIPLEXを使用してマルチサイトカインプロファイルを検討した。母体では仮説の通りsFlt-1は著明に上昇し、VEGFは低値を示したが、出生後の新生児は日齢0(臍帯血)から、母体よりsFlt-1は低く、VEGFは高値を示した。また呼吸障害の強い症例ではVEGF高値が遷延した。 しかし現時点ではnARDSを来した症例の検討はできていない。ヒト肺血管内皮培養細胞にsFlt-1による前処置を行った上で、過酸化水素による酸化ストレス刺激実験を行った。sFLT-1により内皮細胞増殖が抑制され、過酸化水素によって内皮細胞の活性が高まることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養実験でヒト肺血管内皮細胞がsFLT-1によって活性が低下し、酸化ストレスによって活性化することが分かった。徳島大学での臨床研究ではHDP、CAMから出生した新生児はVEGFが高値を示しているが、nARDSを発症した例は含まれていない。2022年に開催された四国新生児医療研究会で本臨床研究のプロトコール案を発表し共同研究施設と協議を行い、nARDSの予想される発症頻度がまれであるため全国にアンケート調査を行い、nARDSについての認知度と頻度について調査した上で全国に研究協力施設を募る方針となった。現在、新生児医療連絡会にアンケート調査についての相談を進めているところである。全国のHDPによるnARDSの認知度と頻度を調査することで本研究の意義が確認され、さらに全国からの臨床検体からnARDS発症例と非発症例を比較することでサイトカインプロファイルの相違がわかりさらに病態の解明が進む可能性がある。よって、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
全国のNICU施設にアンケート調査を行い、重症HDPに伴う早産児の重篤な呼吸障害の実態を把握するとともに臨床検体を募り、サイトカインパネルによってVEGFの値と肺障害の有無について検討を行う。また本年度中にHDPモデルラットを用いた研究を開始し、胎児肺の成長障害の有無や、新生児の高濃度酸素によるnARDSモデルでの肺組織変化、Western Blot、サイトカインパネルによる解析、Real-timeQPCRなどで酸素ストレスへの反応などを検討する予定である。またさらにin-vitroでの肺血管内皮細胞を用いた研究で、sFLT-1濃度依存性のVEGF産生の変化、アポトーシスへの影響などを調べ、さらに候補薬剤のヘパリンなどを加えての反応の変化を調べる。
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