研究課題
従来のエクソーム解析ではゲノム構造異常やスプライシング異常の検出は困難で、その克服が課題であった。本研究は末梢血に発現しているトランスクリプトームに着目し、網羅的な転写産物の質的・量的検出により、これらを惹起するゲノム異常を特定することを目的とした研究である。本年度はWDR45遺伝子の深部イントロン変異により生じている異常スプラシング是正のためのアンチセンス核酸の同定と効果について論文として採択された。本疾患は脳の鉄沈着を伴う神経変性疾患(Neurodegeneration with brain iron accumulation: NBIA)であり、二相性の臨床経過を呈する。適切な時期の治療介入を行うことで症状の進行を抑えることや、軽減させることができる可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
異常スプライシングを起こす具体的な遺伝子変異の同定ができている。また、偽エクソン形成に対する治療が期待されるアンチセンスオリゴヌクレオチドの同定ができていることなど、スプラシング異常を是正するメカニズムの解明への展望が開けてきているため。
初年度の研究により、異常スプライシングを高率に検知可能なSpliceAIカットオフ値が0.7と定まり異常スプライシングを起こすバリアント検出の効率が上昇した。2022年度はその成果を活かして、deep intron variantによる疾患原因遺伝子を同定した。2023年度は深部イントロンバリアントによる異常スプライシングを是正する、治療に有用な可能性のあるアンチセンス核酸の同定を行った。2024年度はさらにRNA解析結果に対して得られたカットオフ値を用いて有意なバリアントを抽出し、全ゲノム解析データと突き合わせ、スプライシング異常を引き起こす新たなゲノム異常の同定を継続して行っていく。
新型コロナウイルスの拡大により、研究期間中に学会開催がオンライン中心となったことや、海外学会への参加を取り下げたことから、予定していた参加費・旅費の支出がなかった。また患者の来院数も減少したことから、研究期間を延長し、研究対象患者のリクルートを継続することとした。次年度もSplice AIのカットオフ値の適正値を用いて異常スプラシングを起こすゲノム変化を効率的に同定し、更に全ゲノム解析のショートリードあるいは構造異常や繰り返し配列でのゲノム変化が想定される場合にはロングリードシーケンシングによる解析を追加した解析を行うほか、治療に結びつく可能性のある核酸医薬研究も平行して行う。
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Sci Rep .
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10.1038/s41598-024-56704-z.