研究課題/領域番号 |
21K15882
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
城賀本 敏宏 愛媛大学, 医学系研究科小児科学講座, 助教 (10781346)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ADHD / 豊かな環境 / 最初期遺伝子 / 行動実験 / RNAseq / 養育環境 |
研究実績の概要 |
新たなADHDモデルであるLister Hooded Rat (LHR)を用いて、引き続きADHD様行動に与える養育環境の影響と脳の分子細胞生物学的変化について検討を行った。95cm x 55cm x 115cmという高さと広さのある大きなケージに、3つの木製の小屋、回し車、3つの餌場と2つの水場、階段や梯子、登り棒などを備えた環境でLHR(豊かな環境群)を飼育した。このような豊かな環境での飼育を行ったLHRを40cm x 25cm x 14cmの通常ケージで飼育したLHR(対照群)の行動を比較した。豊かな環境群は7日間連続で行動量を測定するオープンフィールド試験で急速に慣れが生じ、行動量が3日目に有意に減少した。一方、対照群は逆に2日目以降行動量が増加するADHD児によく見られる多動性が観察された。不注意や衝動性を計測する落下試験では、豊かな環境群は約10%が落下したのに対し、対照群は約90%が落下した。このように、豊かな環境での飼育によりADHD様行動が改善することを示した (Cells 2022, 11, 3649)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度に共著者としてCellsに論文を1編公表し、現在、愛情ある養育環境がADHD様行動を抑制できるという新たな知見を得て、令和5年度中にさらにもう1編の論文を完成できる見込みとなっているため。
|
今後の研究の推進方策 |
豊かな環境での飼育によりADHD様行動が改善し、その改善には前頭葉内側部の神経細胞活動の低下をともなっていることが判明した。しかしながら、前頭葉内側面は社会性に関わる重要な脳領域であり、この部位の神経細胞活動の低下が真に望ましい変化であるのか疑問が残る。実際、ADHD成人症例での社会的不適応は多動や不注意が問題というより、他者への配慮の不足や他者の気持ちの理解の不足が原因と思われるケースが多い。そこで、現在、毎日愛情を持ってLHRと遊び共に楽しく過ごす時間を持つ「愛情ある飼育(loving rearing; LR)」を行なっている。preliminaryな実験結果では、LR群は連続オープンフィールドで行動量が低下すること、落下試験で落下しなくなること、我々が新たに創出した見知らぬ仔ラットへの配慮を測る「優しさテスト」で優れた結果を示した。今後、さらに実験数を増やし、養育環境における愛情の存在がLHRのADHD様行動を改善するのかさらに検討を進め、前頭前野の遺伝子発現を網羅的に調べる。さらに、ミクログリアの変動があるのか、FACSにより調べる。またLHRのADHD様行動の改善をもたらすアトモキセチンと愛情のどちらが優れているか比較検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請書提出までに購入していた物品で一部研究がすすみ、申請していた物品費用を一部解析費用として利用させて頂いたため、申請書の研究費の使途と実際が異なることとなった。今後、さらに実験数を増やし、養育環境における愛情の存在がLHRのADHD様行動を改善するのかさらに検討を進め、前頭前野の遺伝子発現を網羅的に調べる。さらに、ミクログリアの変動があるのか、FACSにより調べる。またLHRのADHD様行動の改善をもたらすアトモキセチンと愛情のどちらが優れているか比較検討を行う。
|