研究課題
本研究では、リアルタイムPCR法を応用した敗血症起炎菌迅速同定システム(Tm mapping法)が、新生児の感染症診療に有用かどうか検証することを目的とした。2019年7月から2023年9月に、当院周産母子センターに入院し、感染症が疑われた児を対象とした。血液培養を採取する際に、Tm mapping法の検体0.2mlを同時採取し解析した。血液は241人から309検体を得た。検体量の平均は273μLであった。在胎週数、出生体重の中央値はそれぞれ35.4週、2,224gであり、検査日齢の中央値は0日(四分位範囲0-23日)であった。Tm mapping法は、およそ4時間で結果が得られた。Tm mapping法で菌種を同定したのは24検体、同定しなかったのは285検体であり、そのうち血液培養が陽性だったのは、それぞれ5検体、9検体であった。Tm mapping法の血液培養に対する陽性的中率は20.8%、陰性的中率は96.8%であった。2症例は、血液培養の結果判明前にTm mapping法で菌種を同定し、感受性のある抗菌薬の変更につながった。また、血液以外の検体(髄液4例、膿瘍2例、胸水1例)に関して、細菌培養結果と比較して、感度100%、特異度100%、菌種同定は属レベルでは4例中4例、種レベルでは4例中3例が一致した。いずれも培養結果より早い時期に結果が得られ、抗菌薬選択や治療効果判定に有用であった。これらの結果から、新生児感染症診療において、より迅速な起炎菌の同定、適切な抗菌薬の選択、治療の効果判定、検体中の菌の陰性化を検証する際に、Tm mapping法が有用である可能性が示唆された。Tm mapping法を既存の培養法と組み合わせて利用することで、互いの欠点を補い、新生児感染症の予後改善につながることが期待される。
3: やや遅れている
入院患者数の減少から年間の解析件数はやや減少した。いくつかの検体では解析結果の確認のために再解析を行っており、時間を要している。
今後も検体の収集を継続し、Tm mapping法と血液培養法との優位性に関する比較検討を行う。敗血症症例では、経時的なTm mapping法により、治療効果判定につながるか検討する。これらの成果を、学術集会や国際雑誌で発表する予定である。
症例数の集積に想定以上の時間がかかったこと、追加の解析を行っていること、研究結果報告のための学会参加、論文投稿などを行うため、補助事業期間を延長した。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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