研究課題/領域番号 |
21K15919
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
華井 竜徳 岐阜大学, 医学部附属病院, 助教 (40585494)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 非代償性肝硬変 / 難治性腹水 / 不顕性肝性脳症 / カルニチン / 栄養評価 / サルコペニア / ガイドライン改定 |
研究実績の概要 |
肝硬変診療ガイドラインに残されている、(1)難治性腹水の治療、(2)不顕性肝性脳症の診断、(3)カルニチン投与に関するクリニカルクエスチョンに関してエビデンスを補強する臨床研究を行った。(1)難治性腹水は予後不良であり、ガイドラインは大量腹水穿刺排液+アルブミン投与と腹水濾過濃縮再静注法(CART)は同等の治療法として記載している。そこで、大量腹水穿刺排及びCARTのそれぞれの効果ならびにQOL、肝機能、腎機能への影響について多施設共同前向き観察研究を行った。結果は大量腹水穿刺排液と CART は8週間の治療で体重減少、肝機能、腎機能、電解質、QOLにおける治療効果は同等であるが、CART は穿刺回数やアルブミン投与回数が少ないことを明らかにした。(2)不顕性肝性脳症は、脳症重症度分類の初期段階であるが、ADL、QOL、その後のアウトカム不良に関連することから近年注目を集めている。しかし、その診断には定量的精神神経機能検査が必要であり、時間、人員、コストの面から実臨床において利便性に乏しく、診断されてこなかった。そこで、不顕性肝性脳症の診断法であるStroop testと同等の診断能を有し、短時間で実施可能な簡易型Stroop testを開発した。また臨床検査値(血清アルブミン値、アンモニア値)のみを用いた不顕性肝性脳症の予測スコアを作成し、臨床現場における利便性を向上させた。(3)カルニチン製剤は肝性脳症のみならず、生存率向上に寄与する可能性を示した。 また、近年GLIM criteriaが慢性疾患患者の栄養状態の評価法として一定のコンセンサスを得ているが、肝疾患領域においてはエビデンスがなかった。そこで我々は、慢性肝疾患患者858例を対象にその有用性について検討したところ、GLIM criteriaはサルコペニアや死亡の予測に有用であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝硬変診療ガイドライン2020のAnnual Review採択された、クリニカルクエスチョンに関するエビデンスを複数報告した。近年、慢性肝疾患の成因としてウイルス性肝疾患は減少し、アルコール性や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの生活習慣に関連した病態が多く占めるようになった。また、2020年に脂肪肝の新概念 metabolic dysfunction-associated fatty liver disease(MAFLD)が提唱され、単なる脂肪肝から代謝異常に関連する病態に注目が集まっている。そこで、我々は2000例を超える慢性肝疾患患者における飲酒状況において、AUDIT問診表を用いてアンケート調査を行い、慢性肝疾患患者の約10%に有害なアルコールおよびアルコール依存が観察さることを明らかにした。さらに若年成人男性335名を対象に、体組成とMAFLDの関連について調査を行った。結果は若年成人男性の8%にMAFLDを合併し、非肥満者であっても脂肪蓄積がMAFLDの発症に重要な役割を果たすことが明らかになった。 現在、慢性肝疾患患者のデータベースとして、当院および関連施設との連携が確立され、前向きにデータの集積が可能な状況にある。また参照値としての健常人のデータの集積も、岐阜大学保健管理センターや関連施設の人間ドックの20年近いデータを利用できる環境を確立した。現在、サルコペニアやフレイル、さらには生活習慣に関連した脂肪肝疾患の増加から、治療介入として運動療法(肝臓リハビリテーション)の確立が急務とされる。その第一歩として、外来に通院している肝疾患患者の現状の運動やスポーツに関する状況についてアンケート調査を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
慢性肝疾患患者および健常人の長期によるデータベースを確立し、慢性肝疾患(特に肝硬変)における至適な体組成の検討や低栄養もしくは過栄養(肥満)患者 に対する栄養食事療法や運動療法(肝臓リハビリテーション)の確立を目指す。特に運動介入するための、患者選択基準の設定、肝疾患合併症や併存疾患の予防対策、運動の頻度・強度・時間、種類の確立、ウェアラブルデバイスを用いた実施状況や有効性に関する相互の情報共有やサポートなどについて検討する。 また個々の患者の病態に合った適切なプログラムが必要となるため、運動療法の確立のみならず栄養療法・薬物療法など、理学療法士・管理栄養士・薬剤師・看護師などによる多職種によるサポートが肝要であり、エビデンスの集積を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に引き続き、データ収集が本格稼働するため、データ収集のためのPCや体組成計などのデバイス、諸経費の増加が予想される。従って翌年度への繰り越しが生じた。また成果発表の為、国内外学会での発表旅費、論文投稿費用が考えられる。
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