本研究では胃の慢性炎症がエピゲノムに与える影響を一細胞レベルで解析する。 まず胃粘膜に蓄積されるエピゲノム異常として、腸上皮化生に蓄積されるDNAメチル化異常について一腺管細胞レベルで解析した。腸上皮化生腺管においては非腸上皮化生腺管に比べてプロモータ領域の異常高メチル化が蓄積されており、既存のがん予測マーカーおよび癌抑制遺伝子において高頻度にメチル化異常が蓄積することが明らかになった。更に腸上皮化生におけるDNAメチル化異常はがん細胞に高確率に持ち越されることが明らかになり、その前がん性が明らかとなった。 腸上皮化生細胞にメチル化が誘導されるメカニズムとして、腸上皮化生特異的にNOS2遺伝子が発現することを腸上皮化生由来オルガノイドを樹立することで遺伝子発現レベル・タンパクレベルで明らかにした。実際に細胞にNOS2発現を誘導することでDNAメチル化異常が誘導されることを明らかにした。 さらに腸上皮化生における異常なNOS2異常発現のメカニズムとして、H3k27acに対するChIP-seqを行い腸上皮化生においては広範なエンハンサーリプログラミングが起こり腸上皮化生の誘導とNOS2発現に寄与していることをつきとめた。更にscATAC-seqを行い、胃細胞においてはNOS2遺伝子のプロモーター領域が閉じた状態となっているのに対し、腸上皮化生の細胞においては開いた状態となっていることが明らかとなった。NOS2発現を誘導する外的要因として複数のサイトカインを腸上皮由来オルガノイドに処理したところ、細菌感染で誘導されるサイトカインであるIL17Aが最もNOS2発現を誘導することを明らかにした。 本研究では、一細胞レベルでのエピゲノムの変化により、異常なNOS2発現が誘導されDNAメチル化異常が加速するという一連のメカニズムを解明した。
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