研究課題/領域番号 |
21K15949
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小山 佳久 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40397667)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 潰瘍性大腸炎 / 酸化ストレス / 水素 / 抗酸化物質 / 抗炎症作用 / 精神症状 |
研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性大腸炎であり、寛解と再燃を繰り返して慢性化する難治性疾患である。消化管の炎症が脳腸相関を介して脳機能にも影響を与えるため、増悪期にうつ病や不安障害など精神疾患を発症する危険が高い。一方、精神症状は潰瘍性大腸炎再燃の主要な要因である。したがって、潰瘍性大腸炎の治療には腸と脳の両方の症状緩和に有効な根治薬の開発が求められる。発症原因の一つに酸化ストレスの関与が挙げられることから、適切な抗酸化作用を有する薬剤が本疾患の有効な治療薬となる可能性がある。我々のシリコン製剤は、経口摂取によって抗酸化物質である水素を腸管で大量かつ持続的に発生し続けることができる。本研究課題では、シリコン製剤が潰瘍性大腸炎の炎症症状と精神症状に対する有効性を検討し、その作用機序解明にも取り組む。最終的に寛解導入及び長期寛解維持が可能な潰瘍性大腸炎の治療薬開発を目指す。我々は、シリコン製剤が患部である大腸の炎症亢進や酸化ストレスの蓄積を緩和することを明らかとした。一方で、シリコン製剤の経口投与マウスの大腸では、より多くの水素発生及び活性硫黄などの抗酸化作用の強い硫黄代謝物の発現増加が観察された。それゆえ、シリコン製剤の抗炎症及び抗酸化作用は、水素による直接的作用と活性イオウによる間接的な作用によるものであると示唆された。シリコン製剤は潰瘍性大腸炎に対する有効的な治療薬になりうる可能性がある。今後は潰瘍性大腸炎に伴う精神症状に有効性を示すか、詳細に検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
潰瘍性大腸炎の発症や症状悪化に酸化ストレスは大きく関わっているため、適切な抗酸化剤は有用な治療薬になり得る。シリコン製剤は水と反応し、大量の水素を持続的に発生する事が出来る。水素は、選択的に有害な活性酸素(ヒドロキシラジカルなど)を中和する抗酸化物質である。新規抗酸化物質であるシリコン製剤が、潰瘍性大腸炎の症状緩和に有効性を示すか検討を行うため、5%デキストラン硫酸ナトリウム誘発性潰瘍性大腸炎モデルマウスに対して、2.5%シリコン製剤含有食餌を与えた群と通常食餌を与えた群で病態について比較解析を行った。始めに、潰瘍性大腸炎の主症状である炎症について検討した。シリコン製剤投与群では、大腸への免疫細胞の浸潤、炎症性サイトカインの上昇、炎症による大腸の短縮や管内構造の崩壊が、通常食餌群と比べて有意に緩和されていた。続いて、大腸炎発症因子である酸化ストレスの蓄積についても検討した。過酸化脂質の血中濃度や大腸への蓄積、全身の酸化ストレスの蓄積も、シリコン製剤与によって有意に緩和されていた。一方で、シリコン製剤を与えたマウスの大腸では水素量が増加し、活性イオウなどの抗酸化作用を呈する硫黄代謝物も増加していた。以上の解析結果から、シリコン製剤は潰瘍性大腸炎の有効な治療薬になりうる可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状に対して、シリコン製剤が有効性を示すか、検討する。最初に、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状を各種行動試験(新規探索行動を解析するオープンフィールド試験、うつ様症状を解析する強制水泳試験など)で評価する。続いて、潰瘍性大腸炎に伴う脳内炎症の領域について、炎症マーカー抗体(Iba1やCD11bなどのミクログリア/マクロファージマーカー抗体やIL-6抗体など)を用いた免疫染色法によって同定を試みる。最後に、前述の精神症状や脳内炎症について、シリコン製剤投与によって緩和できるか、検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状についてシリコン製剤が有効性を示すか検討するうえで網羅的解析や次世代シーケンスなどの研究を多く行う予定のため、次年度に持ち越した。
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