研究課題/領域番号 |
21K15960
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大和田 賢 東海大学, 医学部, 講師 (40756409)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アスピリン / 大腸癌 / 低酸素 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
前年度までに、大腸癌細胞株を用いて、低酸素環境下でアスピリンはアポトーシスを誘導することにより顕著な細胞毒性を示すことを明らかにした。 2022年度は、引き続き低酸素環境下でのアスピリンによる選択的な細胞毒性が、どのようなメカニズムであるのか解析を行った。これまでと同様に、低酸素模倣剤として、塩化コバルトを用いた。 低酸素環境下でアスピリンを処理すると、顕著な細胞毒性と共に細胞内に活性酸素種の蓄積が観察された。活性酸素種は少量であれば細胞の生存に正に働き、過剰であれば細胞の生存に負に働くことが知られている。低酸素環境下でのアスピリンによる細胞毒性に、活性酸素種が寄与するのか検討を行った。抗酸化剤であるアスコルビン及びN-アセチル-L-システインを処理すると、低酸素環境下でアスピリンにより誘導される細胞毒性は、顕著に減弱するとともに細胞内活性酸素種も減少した。次に、低酸素環境下でアスピリンにより誘導されるアポトーシスへの活性酸素種の寄与の検討を行った。抗酸化剤を処理すると、低酸素環境下でアスピリンにより誘導されるアポトーシスのマーカであるPARP及びcaspase3の開裂は、惹起されなかった。 これらのことより、低酸素環境下でアスピリンは、過剰な活性酸素種を産生させアポトーシスを誘導することで細胞死を惹起していることが明らかとなった。 現在、更に詳しいメカニズムの探索及び臓器横断的に観察される現象であるか検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低酸素環境下では、既存の抗がん剤の効果が減弱することが知られ、臨床上の問題となってきた。今回、古くから鎮痛薬として用いられてきたアスピリンが、低酸素環境で毒性を示すことを初めて明らかにできた。更に、今年度の解析で、その詳細な作用機序の一端として活性酸素種の寄与を明らかにできているため、当初の計画通り概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に引き続き、アスピリンによる低酸素環境選択的な細胞毒性の詳しいメカニズムの探索に取り組む。2022年度に取り組めなかった、MAPK経路及びPI3K/AKT経路等の、生存シグナルを司る経路や、細胞周期を司る経路の関与を検討する。更に、細胞死のエフェクター分子として同定した活性酸素種と種々のシグナル伝達経路との相互連関を解析する。 低酸素環境は、多くの固型がんで共通の現象であるため、種々の細胞株を用いて臓器横断的な解析を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
種々のシグナル伝達経路の解析が、次年度にずれ込んだため残金が生じました。 シグナル伝達経路の解析に必要な抗体の購入に充当します。
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