胆膵癌は予後不良な最難治癌である。がんゲノムプロファイリングによる予後改善が期待されるが、評価に値する必要十分な量の腫瘍組織を獲得することは困難であることが多い。アーカイブされた細胞診検体(ACS)は腫瘍細胞の有無を評価済みであり、直接剥離によりDNA抽出が可能なことから、がんゲノムプロファイリングに適した検体であることが期待される。本研究では、ASCをゲノムプロファイリングに供し、発癌関連遺伝子変異および薬剤適合遺伝子変異の同定可能性について、FFPE組織と比較し、最難治癌に対する精密医療の確立を目指した。 胆膵癌において高頻度に変異が同定される60遺伝子を網羅した胆膵癌パネルを構築しターゲットシークエンスに用いた。胆膵疾患44名からFFPE組織19検体、ACS61検体の計80検体を収集した。抽出されたDNAはTaqMan RNase P Detection Reagents KitとFFPE DNA QC Assay v2を用いて質的・量的検討を実施し、DNA収量、断片化程度は両者同等であることが確認された。 FFPE組織とACSの両者を有する悪性胆膵疾患19名において、収集したFFPE組織19検体、ACS29検体のゲノムプロファイルを比較したところ、発癌関連遺伝子変異は76%の一致率であった。また、ACSのみを有する悪性胆膵疾患15名、良性胆膵疾患10名の計25名において、収集したACS32検体のゲノムプロファイルを検証したところ、感度91%、特異度100%、正診率93%と十分な鑑別能を有していた。さらに、治療標的遺伝子変異ならびに薬剤適合遺伝子変異の同定はACSではそれぞれ74%と32%、FFPE組織ではそれぞれ79%と21%であり、同等であった。 このことから、ACSを用いたゲノムプロファイリングは良悪性鑑別と治療標的薬剤の検出において有用であることが示唆された。
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