研究課題/領域番号 |
21K15965
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑 昌宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (90892505)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胃癌 / スキルス胃癌 / 腫瘍免疫微小環境 |
研究実績の概要 |
ヒトの印環細胞型胃癌、いわゆるスキルス胃癌を模倣する独自のマウスモデル(Tff1-Cre; LSL-p53 R172H; Tgfbr2 F/F; Cdh1 F/F、T1-PTCマウス)を用いて、浸潤性胃癌組織全体のスキルス性獲得メカニズムを解析し、それを抑制することで生命予後延長に繋げることを目標としている。 第一に、T1-PTCマウスの胃腫瘍組織より各分画(CD105陽性血管内皮細胞・CD105陰性血管内皮細胞・線維芽細胞)をFACSにより回収し、RNA sequenceを施行した。腫瘍細胞特異的に発現上昇がみられたLRG1蛋白の受容体であるCD105の陽性・陰性血管内皮細胞間で発現遺伝子を比較したところ、CD105陽性血管内皮細胞では血管新生・白血球遊走に関わる遺伝子群が高発現していることが判明した。またT1-PTCマウス胃腫瘍組織の腫瘍関連線維芽細胞 (CAF) においても、深部浸潤癌を呈さないTff1Cre; LSL-p53R172H; Cdh1F/FマウスのCAFに比し、血球細胞の遊走を誘導する遺伝子群が高発現していた。すなわち、印環細胞型腫瘍細胞特異的な分子メカニズムを介して、血管内皮細胞とCAFが協調する形で血球細胞や炎症を誘導し、腫瘍進展に有利な微小環境を形成するという腫瘍間質相互作用の存在が示唆された。 第二に、胃腫瘍オルガノイドのリン酸化プロテオーム解析を施行した。その結果、PTC腫瘍オルガノイドにおいてPAK蛋白のリン酸化が亢進していた。そこでPTC胃腫瘍オルガノイドにin vitroでPAK阻害剤を投与した所、腫瘍オルガノイドで高発現しているCD38が抑制された。したがって、PAK阻害剤はスキルス胃癌における血管内皮細胞誘導機序を抑制する可能性があり、新規治療薬候補として考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T1-PTCマウスのsingle cell RNA sequenceを予定していたが、線維化が極めて強固で単細胞化が困難であったため、プロトコルの改変を繰り返し実施を試みたが、結果的に施行困難であったため、FACSによるBulk RNA sequenceを中心に解析を進めた。 また、先行実験で有効性を確認しているLRG1・CD38特異的抗体の治療前後での間質細胞の遺伝子発現の変化を評価する予定であったが、マウスが極めて死に至りやすいことなどがあり、一時的に実験に使用する十分量のマウス繁殖ができない状態となってしまい、今後繁殖体系を安定させた後に実験を施行する予定である。 オルガノイドとFACSで単離した間質細胞の共培養も予定していたが、上記同様マウスの安定供給が滞ったことと、コロナ禍を契機にオルガノイド培養に必須のゲル試薬が入手困難となったこともあり、現時点では施行できていない。マウスと試薬の準備ができ次第、実験の施行を検討する。 リン酸化プロテオーム解析によって新規治療薬候補となったPAK阻害剤によるin vivoでの評価もマウスの供給が安定した後行う。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの供給体制を安定させることが第一となる。マウスが使用できるようになれば、有効性を確認しているLRG1・CD38特異的抗体による治療後の間質細胞の変化をBulk RNA sequenceを用いて解析する。免疫細胞についても可能であれば解析を検討する。また単離した間質細胞と腫瘍オルガノイドの共培養も施行し、腫瘍増殖への関与を分析する。 リン酸化プロテオーム解析により新規治療薬候補となったPAK阻害剤によるマウスへの投与も進め、治療効果評価を行う。
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