本研究ではスキルス胃癌を模倣する独自のマウスモデル(Tff1-Cre; LSL-p53 R172H; Tgfbr2 F/F; Cdh1 F/F、T1-PTC)を用いて、胃癌組織全体のスキルス性獲得機序を解析し、生命予後延長に繋げることを目標とした。 T1-PTCマウスの腫瘍細胞に特徴的なCD38・LRG1発現上昇による血管新生亢進・線維化亢進の機序を解析するため、胃腫瘍組織からFACSにより各分画細胞(CD105陽性/陰性血管内皮細胞・腫瘍関連線維芽細胞(CAF))を回収しRNA sequenceを解析した。LRG1蛋白の受容体であるCD105の陽性/陰性血管内皮細胞間の比較で、CD105陽性血管内皮細胞において血管新生関連遺伝子群・細胞外マトリックス増生・細胞接着を亢進する遺伝子群が高発現しており、CD105陽性血管内皮細胞が血管新生・線維化・炎症誘導に関連して腫瘍免疫微小環境(TIME)形成に寄与することが明らかとなった。またCAFにおいても、深部浸潤癌を呈さないT1-PCマウスのCAFに比し、多くの炎症・免疫反応・血球遊走関連遺伝子の発現上昇が確認された。すなわち、スキルス胃癌は腫瘍細胞特異的な分子メカニズムを介して、血管内皮細胞とCAFが協調して血球細胞や炎症を誘導し、腫瘍進展に有利なTIMEを形成するという腫瘍間質相互作用の存在が示唆された。 次にスキルス胃癌特異的な活性化経路の検索を行うため、オルガノイド(WT・PC・PTC)でのリン酸化プロテオーム解析を施行した。PTCオルガノイドにおいて特異的な経路としてPak遺伝子が同定され、PTC腫瘍への効果を評価すると、PAK阻害剤は濃度依存性にPTCオルガノイドでのCD38・LRG1蛋白の発現を低下させた。PAK阻害剤がスキルス胃癌の血管内皮細胞誘導機序を抑制する新規治療薬である可能性を今後も検討する方針である。
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