研究課題
前年度までに患者由来膵臓癌、並びに膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のオルガノイドライブラリーを樹立し、オミクス解析と生物学的機能評価を組み合わせることで、クロマチン動態に焦点を充てた膵腫瘍のゲノムリソースを集積した。本年度はこれらのリソースを発展活用し、クロマチン動態よりも高次の、ゲノム構造の観点から膵腫瘍の特徴解明を試みた。Hi-C解析を用いて膵腫瘍のゲノム構造を俯瞰すると、クロマチン動態同様にIPMN系譜に特徴的なゲノム構造の存在を示唆する知見を得た。続いて、これらゲノム構造と膵臓癌の生物学的特性との関与を検討した。すると膵臓癌の悪性度の指標として確立しているトランスクリプトーム分類とゲノム構造との間に相関があることを見出した。そこでゲノム構造の形成機序を検討した。ゲノム構造構築には転写因子依存性の凝集体が関与するという知見に着目し、ゲノム構造に関与し得る転写因子を探索した。すると転写因子HNF1Bと膵癌サブタイプに応じたゲノム構造の関与が示唆され、HNF1Bの強制発現系では悪性度に関わる遺伝子群の発現がゲノム構造と連動していることを確認した。さらにHNF1Bを介してゲノムが活性化コンパートメントに凝集する過程を可視化し、転写因子の凝集がゲノム高次構造構築のメカニズムであること、本現象が膵癌の悪性度/サブタイプの規定に重要である可能性を見出した。こうした機構はHNF1Bの凝集体形成に関わると推察される機能ドメインに依存していることも実証した(2022 Cancer Sci., PMID: 36511816)。本研究成果は、細胞種特異的な転写因子がクロマチン動態・ゲノム高次構造を構築する駆動媒体として機能し、細胞毎の生物学的特性/悪性度を規定している可能性を提唱するものであり、膵癌の治療最適化に向けた研究の足掛かりになることが期待される。
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膵臓
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Cancer Science
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