研究課題/領域番号 |
21K15970
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山本 健太 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (80852582)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 肝疾患 / 肝臓 / 筋肉 / サルコペニア / アミノ酸 / ネットワーク解析 / 機能遺伝子 |
研究実績の概要 |
近年腸内細菌叢は慢性肝疾患・肝硬変と関連し、予後や薬物療法の有害事象などと関連することが報告されている。しかし患者のQOLに直結する筋肉量と腸内細菌叢の関係性は未解明の課題であるためその関係性を研究した。 当院を受診した慢性肝疾患患者69名を対象にCTを用いて骨格筋量指数により骨格筋量低値群(25名)と正常群(44名)に分けて腸内細菌叢と菌叢が有する遺伝子を予測することでどのような役割を果たしているかを評価した。これにより低下群は正常群と比較してFirmicutes/Bacteroidetesの比率が低いことがわかった。属レベルでも、Coprobacillus、Catenibacterium、Clostridiumは低く、Bacteroidesは高かった。予測機能プロファイリングでは、窒素代謝に関連する遺伝子が濃縮されていたが、BCAA 生合成を含むアミノ 酸代謝に関連する遺伝子は低いことが示された。また、「LPS生合成」に関連する遺伝子も高くなっていた。これにより筋肉量の少ない慢性肝疾患患者の腸内細菌叢はLPSを持つグラム陰性菌の相対量が多いだけでなく、BCAAを含むアミノ酸合成能が低い可能性があることがわかった。 このように筋肉量と患者間に腸内細菌叢だけでなくその機能、特に腸内細菌叢が合成するアミノ酸合成が関連している可能性が示された。さらに別の患者群において血液中の分岐鎖アミノ酸濃度と各属レベルの細菌の相対存在量の相関を計算し、ネットワーク構築を行った。これによれば筋肉量と血清ロイシンが相関するなどの既報に準じる変化は認められたが、筋肉量と関連する特定の細菌は同定されなかった。一方で細菌が有する分岐鎖アミノ酸合成に関する酵素の予測遺伝子を基準とすると血清ロイシン相関する可能性が示唆された。細菌の同定だけでなくその細菌の特徴や機能を含めた解析が必要であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性肝疾患患者における腸内細菌叢の検体収集とその解析を順調に行うことができ、多くの知見を得ることができた。特に筋肉量が低下している患者においては細菌叢が異なるだけではなく、細菌が腸管内で果たす役割や機能が異なることなど新たなカテゴリーや見方を行う必要があることが判明したことは今後の解析において重要な知見と考えられる。 一方で患者間には細菌叢の違いを見出せたが同一患者において筋肉量の変化により細菌叢がどのように変化するのかなどは評価できておらずさらなる研究が必要と考えられる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は同一患者内において筋肉量や筋力が変化した際に腸内細菌叢が変化するかどうか、患者内腸内細菌叢の評価を検討している。すでに低下した患者と正常患者を比較する患者間評価と異なり、検体を研究期間内に収集するのが難しく変化後の結果が事前に予測できないなどの課題が想定される。一部の患者ではすでに解析を行ってみたが患者の腸内細菌における恒常性が非常に強く、短期間の観察・介入や多少の筋力や筋肉量の変化では大幅な細菌叢の変化は生じない可能性が示された。さらなる解析は必要であるが患者数を予定よりも増加させる必要性や新たなバイオインフォマティクスの導入、遺伝子や血清アミノ酸濃度、質量分析など様々な角度から評価を行うことにより細菌を同定するだけでなく新たなカテゴリーや指標を柔軟に取り入れて関連性を検討する必要がある。 またネットワーク解析に関して想定した以上に様々な計算手法や統計学的概念が最近報告されるようになっており、古典的な手法だけでなく様々なネットワーク解析のアルゴリズムを検討する必要が生じた。複数の手法を導入し、比較することで本研究において最も正確に結果を評価できるかを検討する必要がある。これには多くのサンプルデータと高度なプログラミング技術が必要なものも含まれている。
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次年度使用額が生じた理由 |
十分な量の検体数が集まった段階で解析を行う必要があるため、すでに検体は集められているが解析は今後行う予定の検体が現在多い。これらは次年度に複数回の腸内細菌叢解析を行う予定であり、次年度使用額はこの際に使用される予定である。解析時期により年度移行となっただけであり予定通りの解析に予算を使用する予定である。
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