研究課題
研究代表者は当初の計画通り、潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患(IBD)の病態生理と食餌由来因子に着目し研究を行っている。IBDは遺伝的素因・免疫調節機構の破綻など複数の因子が関与する多因子性疾患である。本邦においては食生活の変化とIBDの患者数増加が一致していることから、食餌由来因子と同疾患成立に関する因果関係が想定されてきたものの、その詳細は明らかとされて来なかった。本邦のIBD患者を対象とした大規模な症例対照研究では、食事由来イソフラボンの摂取が発症リスクとなる可能性が示された。しかしイソフラボン類がヒト健常腸上皮、あるいはIBD患者腸上皮に対し、如何なる作用・生理活性を有するか、その詳細は明らかとなっていない。研究代表者は患者由来のヒト腸上皮オルガノイドを用いてダイゼインやゲニステインなどのイソフラボンの腸上皮への作用について解析を行いイソフラボン類の一つであるゲニステインが1)腸上皮幹細胞・前駆細胞の増殖抑制に働くこと、また2)ヒト腸上皮細胞においてEGFR・HGFRのリン酸化を選択的に抑制することを明らかとしている。次に標的細胞を明らかとするため、健常腸組織、炎症性腸疾患の患者由来腸組織及び患者由来組織より樹立した腸上皮オルガノイドにおいて、EGFR・HGFRのを免疫染色を行ったところ腸上皮全体にEGF/HGF受容体が発現していることが確認された。ゲニステインはエストロゲンに類似した構造を有し、同ホルモンに類似した作用を発揮し得ることが知られている。腸上皮オルガノイドにおいてゲニステインが如何なるエストロゲン類似作用を発揮し得るのか、についても全く明らかにされていないことから、同シグナルを介した幹・前駆細胞増殖能制御の可能性についても検討を加えたところ代表的なエストロゲンである17β-estradiolの添加では著明な増殖抑制能は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に則り、当研究室が有する患者由来ヒトオルガノイドバイオバンクを用いてイソフラボン類であるゲニステインの腸上皮における役割について解析中である。
研究計画に則り研究を推進していく。研究代表者らのグループは患者由来組織から樹立した腸上皮オルガノイドを用い、2次元単層上皮(モノレイヤー)をトランスウェル上に形成させ、創傷治癒モデルとして評価・解析する手法を確立済みである同手法を用いてin vitroモデルによるゲニステインの創傷治癒における役割について検討を加える予定である。またゲニステイン投与によりオルガノイドのバルーニングを認めた為、同現象についても検討を加える予定である。
理由:試薬などが計画当初より廉価で購入可能であったこと。コロナ感染症の影響で検体数の減少、物品が届かないなどのため予想より消耗品の購入が制限されたこと。また本年度はオルガノイドのバルーニング現象など予想外の現象が観察されたためRNA-seqなどは行っていないため差額が生じた。使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する、またRNAーseqを行うなどより実験解析の規模を大きくする予定である。
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