研究課題
研究代表者は当初の計画通り、潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患(IBD)の病態生理と食餌由来因子に着目し研究を行っている。研究代表者の施設も参加し実施された本邦の大規模な患者対照研究では、潰瘍性大腸炎発症に関わる食餌由来因子としてイソフラボン類が同定されている。研究代表者は既に患者由来のヒト腸上皮オルガノイドを用いてダイゼインやゲニステインなどのイソフラボンの腸上皮への作用について解析を行いイソフラボン類の一つであるゲニステインが1)腸上皮幹細胞・前駆細胞の増殖抑制に働くこと、また2)ヒト腸上皮細胞においてEGFR・HGFRのリン酸化を選択的に抑制することを明らかとしている。同様に様々なRTK阻害剤またはリコンビナント因子を用いたオルガノイド再構成アッセイにより、EGF/EGFRとHGF/HGFRシグナル伝達の間の代償的相互作用を示唆する結果を得ている。EGFRは、標準的な培養条件下では、ヒト腸上皮オルガノイドにおける第一の増殖シグナルとして作用するが、EGFRがゲニステインのような外部因子によって阻害されると、HGFRが代償的な役割を果たし、細胞増殖を維持する可能性が示唆された。さらに2チャンバー培養インサートを用いて500μm幅の間隙を有する2D-monolayerを作成し、創傷治癒モデルとして利用した。インサート除去に伴いCell-free領域が閉鎖する過程を観察し、Cell-free領域の減少率から算出される間隙閉鎖率と創傷治癒速度(μ㎡/h)を計測したところ、ゲニステイン投与群で有意な低下を認めた。以上より、本研究によりゲニステインがEGFRやHGFR経路を含む分子経路を介して幹/前駆細胞機能および創傷治癒能力を調節する作用を有し、潰瘍性大腸炎の発症に関わっている可能性が示された。今後はゲニステイン下流の分子機構のさらなる解明や生体内での解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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