研究課題
肝内胆管癌の約20%に存在するイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)の変異が、肝内胆管細胞からの発癌過程においてどのような生物学的役割を果たすのかは未だ明らかでない。変異型IDHは野生型IDHの産生したαーケトグルタル酸(α-KG)を2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)に変換することで、α-KG依存性のヒストン及びDNA脱メチル化酵素を阻害することで、細胞のエピゲノムに影響する。研究者藤原はこれまでの研究において、マウス肝臓より樹立した肝内胆管細胞へIDH1変異を発現させると、解糖系の律速酵素の1つホスフォフルクトキナーゼ(PFK-1)のサブユニットの一つであるPFKPの発現上昇を介して、解糖系が活性化されることを示した(Scientific Reports 2019)。しかしながら、IDH1変異単独の導入では発癌に至るプロセスの解明には至らないことも明らかとなり、本研究では幾つかの遺伝子異常を合併して導入させることで、IDH1変異と共存する遺伝子異常が協調して構築する発癌への分子生物学的基盤の一端を明らかにすることを目指した。その結果、複数の遺伝子異常を組み合わせることで、マウス肝内胆管細胞へヌードマウス皮下への腫瘍形成能を獲得させることに成功した。その組織像は単層の上皮組織から重層化した異型上皮、更には胆管癌に至るまで、多彩であった。また、IDH1野生型発現細胞由来の腫瘍と比較して、IDH1変異型を発現する細胞から形成された腫瘍の組織像は悪性度が高かった。
2: おおむね順調に進展している
結果の再現性も非常に良好で、樹立したモデルの様々な実験における汎用性も高いため。
本年度で樹立に成功したIDH1変異陽性胆管癌の多段階的発癌モデルを利用し、その背景にある分子生物学的基盤を明らかにし、網羅的遺伝子発現解析等を利用して標的遺伝子の同定へと計画を進めていく予定である。
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